(文=編集長・樋口郁夫)
全国高体連レスリング専門部の登録者(競技人口)がV字回復した(関連記事)。全競技の登録者総数が4,477人増え、増加率が「0.42%」だった中、レスリングの登録者は93人増で、増加率は「4.63%」。男子に限れば89人増えて、「5.03%」の増加率となった。
2024年度から2025年度にかけての「61選手増、増加率3.1%」に比べ、数・率ともに上回ったことは特筆される。
コンタクトスポーツであるため、コロナ禍のときは敬遠された競技のひとつがレスリング。その反動という考え方もできるが、格技系では、柔道の「増加率1.72%」、相撲の「減少率5.59%」、空手の「減少率3.02%」、ボクシングの減少率「8.06%」、剣道の「減少率0.74%」、フェンシングの「増加率0.15%」と比べて、健闘していることがうかがえる。
高体連レスリング専門部の田中秀人理事長は、2024年に男子の登録数が1,700人を切ったとき、現場に「どうなるんだろうか」という声が多く、危機感があったと振り返る。「その危機感によって、増加へ向けての意識が高まったことが大きいと思う」と話す。
コロナ禍がおさまって普及への努力が再スタートしたことのほか、若い監督がSNSによって積極的に自クラブをアピールするようになったことも、「要因のひとつではないか」と推測する。
練習風景だけではなく、遠征に行った際に近くの観光地に行ったことや、楽しいことが伝わるイベント、有名選手が来てくれたことなどもアップ。レスリングについて回った3K(きつい、汚い、危険)のイメージを払拭し、「楽しいクラブ」であることを数多く前面に出し、それが選手を引きつけていると考えている。
確かに、インスタグラムで活動をアピールしている高校レスリング部は多い。SNS、特にインスタグラムは10代の若者の必須アイテム。ホームページは、そこにアクセスしない限り目にすることはないが、インスタグラムはスマホやパソコンが自分にあったものを選んで表示してくれるので、思いがけず目にし、引きつけられることがある。
若者だけではない。筆者も(昭和30年代生まれです^^;)、インスタグラムで思いもかけない場面に遭遇することがある。「こんなシーンがあったのか」という“発見”があり、重宝している。
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新聞・雑誌・テレビしか広報手段がない時代が長かったが、もうそんな時代ではない。ホームページも、それだけでは力不足の時代。SNSとの連動でこそ効果がある。SNSの駆使は、競技の普及に欠かせない手段。それを認識できない人や、取り組む発想もない人は、競技団体の運営に携わるべきではない。
田中理事長は、「(日本の実力アップによって)自分のクラブ出身の選手が世界で活躍するようになり、後に続く選手にとって身近な存在になっている。選手が夢を持ってくれる面があるのではないか」とも推測している。その意味では、パリ・オリンピックで11人がメダルを獲得したことで、メダリストがキッズや中学生選手と接する機会が多くなり、今後につながるとも期待している。
オリンピックの金メダルが、それだけでは普及につながらないことは、多くの競技で証明されている(レスリングの歴史が、その頂たるものだろう)。柔道の世界チャンピオンであり、日本オリンピック委員会(JOC)理事としても活躍した山口香さんは「オリンピックなどで金メダルを取ったからといって、競技人口の増加につながらない」と主張し、柔道界の旧態依然とした体質を厳しく指摘したことがあった(関連記事)。
筆者は、広報体制が充実した状況なら、メダリストが現場に下りてくれることで、「オリンピックの金メダルは普及につながる」と考える。雲の上の存在だった人が目の前にいれば、違った気持ちになるはず。一方、広報の努力がなく、若い選手がオリンピアンや世界チャンピオンの名前も顔も知らないのなら、目の前にいても意味がない。オリンピックでメダルを量産してきた“昭和のレスリング”が足りなかったことは、この点だ(今の日本レスリング協会は、まさにこの状態)。
広報、すなわち情報伝達は普及に欠かせない要素。若い選手に憧れの存在を持たせることが必要。そのうえで、高谷大地選手や日下尚選手が、「自分の小学校時代は、特別な成績はありませんでした」と話せば、そのときに成績を残していない選手が「中学・高校へ行って頑張れば、オリンピックに行ける」と思うだろう。オリンピックは、キッズ時代のエリートだけが出場している舞台ではない。それを、体験を通じて伝えることが競技人口の増加につながる。
パリのメダリストが、「協会は何もやらないから」として、自らサイン会を実施したが(関連記事)、一人でも多くのキッズ・中学生選手と接してくれたことは、今後の競技人口の増加につながるはず。メダリストには苦労をかけるが、レスリング教室やサイン会などへ積極的に参加し、競技の発展に尽力してほしい。継続してもらう努力の積み重ねが、大きな力となる。
田中理事長以下、レスリング専門部役員の普及への意識は高い。そのひとつが、ラッシュガードの着衣を導入したことだ。その流れは中学にも波及し、11月の全国中学選抜U15選手権(東京都レスリング協会主催)でも採用される。田中理事長は「3~4年後の競技人口も上向いている、という期待を持っています」と話す。
日本協会は、今月17日の理事会でも日本協会主催の中学・高校大会でのラッシュガード採用を見送った。「シングレット禁止」ではない。「どちらでもいい」だ。何が採用をためらわせているのか。今の選手は何のことか分からないだろうが、「いいと思うことは、やってみる」が八田イズムだ(クリック=そのおかげで、「朝令暮改の協会」と言われたのだが…)。「踏み出せば、その一歩が道となる」の精神で、1日も早く認めてほしいと思う。
「若い指導者は部員を増やしたい気持ちが強い」と田中理事長。部員の多いクラブの監督が、「部員集めの方法を発表する機会があってもいい」とも話す。
筆者は、2023年から高体連レスリング競技の登録者数をホームページに掲載している。高校の指導者が普及への意識を持ってくれることを求めてのことだ。各都道府県が登録人口を前年より5人増やせば、全国で235人増える。1校が1人増やせば(男女をやっている高校は男女各1人)、316選手増え、「2,500人」が見えてくる。
ひとつ要望させてもらえば、レスリング専門部はビーチに取り組むべきだと思う。サーフィンやスケートボードなどが、追加競技とはいえオリンピックに採用されたのは、現在の若者が“その種の闘い”を望んでいるからだ。ビーチは、もちろん心身の強化が必要だが、サーフィン感覚で臨める種目だと思う。
「ウチはビーチもやっているよ。楽しみながらレスリングをやろうよ!」というアピールで選手を集めることがあってもいい。普及への強い思いがあるレスリング専門部だけに、ぜひ行動を起こしてほしい。
まず「全国で2,500人」を目標に、高校の監督さんの頑張りに期待します。
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