2026.05.15NEW

【直言! 過去・現在・未来(19)】浮上したU15~23の男女統合大会(来年4月10・11日)、目的と経費比較を明らかにするべきだ

(文=編集長・樋口郁夫)

 4月25日に横浜武道館で行われたJOCジュニアオリンピックの開会式。日本レスリング協会の富山英明会長のあいさつで、「来年からは、U15~23の大会を統合して行うので、ここ(横浜)で行うのは最後になる」という意味の言葉が飛び出し、度肝を抜かされた。うわさは聞いていたが、そこまで具体的に話が進んでいたのか?

 記者の習性で取材をすると、協会理事(複数)は「箝口令(かんこうれい)が出ていますから」としてノーコメント。箝口令を出すような議案を、会長が公の場で口にする…。前回の本コラムで、筆者は「理事会の密室化を改善してほしい」と主張したが(クリック)、会長がそれを受け入れてくれたのかな? ならば、理事の皆さんは遠慮なく話してほしいものだ。

 取材を進めると、協会は来年4月10日(土)・11日(日)に代々木競技場第1体育館を押さえ、この2日間で、これまで立川で行われていたU15・23全日本選手権(男子)、東京武道館で行われていたジュニアクイーンズカップ(女子U15~23)、そしてこの大会(男子U17・20)をまとめて行う方向で話が進んでいるとのこと。

 ただ、会場の予約ができた段階であり、具体的な話はこれからの様子。これまで運営を担ってきた現場では不可能視する声が多く、「実現は難しいのではないか」と口にする人は少なくなかった。

予想されるマイナスを十分に考えることが必要

 新たな取り組みを頭ごなしに反対するつもりはない。新企画を否定し、マイナス面を考えてばかりいては新しいことはできない。見切り発車であってもスタートすることが大事という理論はもっとも。打ち合わせを重ねても、第1回は想定外の出来事が起こるのが普通。その課題をつぶしていって、いいものを作り上げていくことが大事だ。

 一方で、企画段階で綿密に計画をたて、予想されるマイナスを十分に考えて実現の可否を考えることも必要だ。今回は、現場の意見を十分にすくいあげているとは言い難い。来年の実現は早急なのでは、というのが筆者の感じた印象だ。

 この件に関して、協会幹部を取材すると、一般理事と違って口は開いてくれたが、私が統合大会に反対し、ケチをつけていると思ったのか、途中で「やることは決まっているんだ。おまえに、とやかく言われる筋合はない」との言葉を浴びせられたのは、はなはだ心外な出来事だった。私は現場の意見を聞き、その意見や自分が疑問に思ったことを質問したのであり、記者の本分(義務・役目)だ

 現場の意見を無視し、「オレたちのやることにケチつけずに従え」という昭和の運動部体質が、富山体制なのだろうか。プロ野球やJリーグの幹部が取材に対してこうした言葉を返したなら、マスコミから総反撃を受け、辞任に追い込まれることもありうる暴言。事実、今週、日本ボブスレー連盟の会長が不適切発言により、同連盟会長と日本オリンピック委員会(JOC)副会長を辞任している。公人の立場にいる人は、言葉に気をつけてほしいと思う。

おぼろげながらの経費削減目的では、絵に描いた餅

 今回、富山会長を取材することはできなかったが、会長は「何のために統合大会をやるのか、その目的と必要性」を明確に示すべきだ。私が聞いた限り、経費の問題からスタートしたようだ。

 だが、準備委員会(という会議が何度か行われていたもよう。「検討委員会』が、いつの間にか「準備委員会」になったとか)で、「これまでの3大会で総額いくらかかっており、統合大会にするといくらになるのか」との質問が出たそうだが、答がなかったという。つまり、綿密な予算計画に基づくものではなく、おぼろげながら「6日間の大会を2日間にするんだから、安くあがるだろう」という理論のようだ。

 そんな単純にいくものだろうか。大規模大会であるがゆえにかかる経費もある。ちなみに、各会場の1日あたりの使用料は下記の通り(いずれも会場HPより)。

■横浜武道館=1日9万4,600円、ビジョン使用料=1日5万5,000円(試合順を掲示する)、マット2面常備
■東京武道館=1日21万7,800円(ビジョンなし)
■ドーム立川立飛=1日16万5,000円(ビジョンなし)
■代々木競技場第1体育館=1日74万円、ビジョン使用料=1日15万円。

 まず、会場使用料やマット運搬経費、補助役員・審判員の交通費・日当・弁当代・ユニフォーム代、ネット中継にかかる費用の総経費をしっかり示すことが必要。これまでと同じか経費削減の予算が出て、はじめて論議ができるはず。経費増加が間違いなければ、それを推し進めるには、よほど説得力のある理由が必要となる

▲米国でときに実施されているマット10面以上の大会。日本レスリング協会の組織力で、すぐにできるものか…

 ただ、参加する指導者の負担軽減の理由もあるようだ。例えば、前記の3大会のすべてに選手をかかえている地方の指導者の場合、1ヶ月強の間に首都圏まで3往復しなければならず、宿泊代もかかる。2日間でやれば、1往復+2泊分の経費で終わるわけで、これはもっともな理論。

10面マットの設営、大会運営の大変さは?

 次に問題になるのが、会場設営ができるかどうか。U15~23の男女選手が出場するということは、高校・大学のレスリング部員の動員は難しいことを意味する。10面マットを設営し、撤収するのに、何人が必要となるか、どこからその人員を確保するのか。この計画を推し進めている協会幹部は正確に把握しているのだろうか。

 今年の参加選手数で計算すると、総選手数が約1,600人となり、10面マットを使ってもかなりタイトなスケジュールになる。終了予定は、初日が午後8時を回り、最終日も午後4時か? 全121階級の表彰式は、どういう形でできるのか(1階級1分30秒としても各日1時間半ですよ)。裏方の作業は大会の何日も前から始まっている。現在の協会の人員・体制で、1,600人のエントリーの処理や設営の準備をする余裕があるのか。

 大会では、現在のJOCジュニアオリンピック(5面マット)の倍の補助役員が必要。約1,500試合のスコアシートの作成、賞状の作成、記録のチェックと発表(当サイトも新聞も、記録は当日中に発表してもらわなければなりません)など、すべてのことが倍の作業量となる。

 「人を増やせばいい」と言うのは簡単。確保できるかどうかが問題だ。1日3,000円の日当で、10時間を超える拘束×2日に手を挙げるボランティアを集められるものか。集めても、まったくの素人だけでは使えない。

 審判員はどうか。10面マットなら、約100人の審判が必要となる。約200人のA級審判員のうち、半数を年度初めの時期に集めることができるのか。「年度初めに休みを取るのは、肩身が狭い」と言う高校教員の審判員は多い。、

 現在は、地方の応援者にとって大会のネット中継は欠かせない。10面マットのネット中継をできるものか(ネット回線の容量は大丈夫か?)。見る側が混乱しないか。

全国高校選抜大会の2週間後に開催する必要があるのか?

 来年予定している4月10・11日の場合、問題になると思われるのは全国高校選抜大会(3月27~29日)との大会間隔だ。地方の高校の中には、新潟市で行われた同大会のあと、関東や関西に寄って春休みいっぱいを強豪高校・大学への練習に参加させてもらい、しっかり鍛えて帰郷。1週間ほどしてからJOC杯への調整に入るケースが多い。

 高校選抜大会の2週間後に統合大会が行われるのなら、高校選抜大会が終わったあとすぐに調整練習となり、出げいこでワンランク上の練習に接することが不可能となる。高校の指導者は、4月10・11日開催で話が進んでいることを知っているのだろうか? それに異存はないのだろうか? 4月末の代々木競技場を確保できなかった段階で、この計画は先送りするべきではなかったのか。

 もうひとつ、どの理事も口をつぐんでしまうので確認できなかったが、伝わってきたのが、代々木競技場第1体育館は、1競技団体に対して利用は半年に1度という不文律があるらしいこと(間違っていたら、訂正します)。ということは、統合大会を4月に代々木でやることになった場合、7月末恒例となった全国少年少女選手権の代々木開催ができなくなる。

 全国少年少女連盟の役員には、このことをしっかりと確認してくれることを望みたい。確認するべきだ。もし事実なら、定着した7月末の代々木での全国大会がなくなることに同意するのか。代替会場のめどは立てられるのか。

▲真夏恒例となった代々木第1競技場での全国少年少女選手権も、見納めか。

 協会幹部が口にしていた「U17アジア選手権の開催が早くなっているので、エントリーに間に合わせるため、国内予選を4月初めにやらなければならない」という理由は当たらない。今年の場合、U17・23アジア選手権は5月23日からだが、最終エントリーは5月11日だった(今年に限り、JOC杯が予選ではなかったが、予選にしても問題なかった)。

 世界レスリング連盟(UWW)は、現在のU17大陸選手権は時期が早すぎる(まだ学期中)との理由で、時期を遅くすることを発表(クリック)。2027年はU17・23が6月12~20日、U15・20が7月10~18日に開催。2028・29年の日程も発表されたが(クリック)、4月末の横浜開催で何の問題もない日程だ。

マイナス情報をしっかりと加味して事を運んでほしい

 総選手数が約1,600人という大会は、これまで日本協会がやったことのない大会。全国少年少女選手権が一時、1,500人を超える大会となっていたが、いきなりではなく、徐々に増えていって、連盟役員の経験が積み重なってこそ開催できた。しかし、1,500人を上限と考え、幼年の部や小学1・2年の部をカットし、選手数の削減を実施している。いきなり総選手数1,600人の大会をやるのは、富士山にも登ったことがない人間がエベレストに挑むようなもの。

 新しいことを始めるにあたっては、悪い情報を優先する必要がある。いい情報ばかりを受け入れていると、必ず落とし穴にはまる。その穴に落ちるのは、役員席に座っている協会の幹部ではなく、現場で汗水たらして働く人間である。

 「できるリーダー」は、部下からの悪い情報を受け入れることができ、悪い報告をしやすい雰囲気をつくれる上司だと言われる。私が協会幹部から感じたのは逆で、「4月10・11日に会場を確保したんだから、これに沿ってやる」という姿勢であり、マイナス情報に耳をふさぎ、上命下服(じょうめいかふく=上の命令に絶対に従うこと)を命じる雰囲気だ。現場の意見を取り入れるという姿勢で、マイナス情報をしっかりと加味して事を運んでほしい。

 まず経費比較を出すことだろう。「従来の経費」「協会案の予想経費」のほか、現場で出ていた「女子は現状のまま、男子は4世代を4月末の横浜開催という折衷案の予想経費」の詳細を明示するべきだ。経費が増大した場合、そのしわ寄せがどこに行くかは、言うまでもない。


過去記事

■2026年3月4日:(18)理事会の密室化によって協会と現場に大きな溝、改善を求めます

■2026年2月4日:(17)女子のプロアマ合同練習から感じた「輝く舞台はオリンピックだけではない」という事実
■2026年1月6日:(16)何の罪もない選手の練習環境を奪っていいのか? 連帯責任は絶対に科すべきではない

《2025年記事(1)~(15)》