2026.07.19NEW

【特集】指導者として“成人式”を迎えた花咲徳栄・高坂拓也監督、“200本の矢”で全国王者奪還を目指す(上)

(文・撮影=布施鋼治)

 「指導者としてのスタートは2007年11月からなので、今年はちょうど20年目になりますね。ちょうど成人ですよ」

 そう語るのは埼玉・花咲徳栄を率いる高坂拓也監督(日大卒)だ。昨年のインターハイでは決勝まで進出しながら、自由ヶ丘学園高に1-6と完敗を喫した。

 「今年こそ」-。現在の部員は3年生10人、2年生8人、1年生10人の計28人。高坂監督は「人数は、今までで一番多いと思います。来年、寮に全員入り切れなくなれば、何らかの工夫しなければならない」と説明する。

 一番遠い通いの部員は、千葉県成田市から高校のある埼玉県加須市まで片道2時間半かけてやってくる。東京都港区から通っている部員もいる。「女子? 考えていないわけでないけど、まだ女子が練習できる環境がない。寮もなければ、更衣室もないし」

▲昨年準優勝の悔しさをばねに、全国王者奪取を目指す花咲徳栄高チーム

 いずれにせよ、これだけ部員が集まるのは、高坂監督と前田頼夢コーチ(日大卒)の指導を3年間受けたいからにほかならない。高坂監督に指導論について水を向けると、「別に特別なことをしているわけではないけど」と前置きしてから次のように話した。

 「小学生、中学生とやってきて、高校を卒業したら大学や社会人でやる子が多い。ウチはその中間点。ちょうどジョイントの部分だと思う。それがある程度うまくいっているのかなと思いますね」

 具体的に言うと? 「僕は、レスリングさえやっていればいい、みたいな話はしてはいけないと思っています。語弊があるかもしれないけど、高校のときは負けてもいい。その分、しっかり練習して試合に臨む。たとえ負けるにせよ、しっかりと次につなげることができればいい。そういうふうに教えています」

▲厳しい視線で練習を見つめる高坂拓也監督

吉田アラシ(三恵海運)ら日本のトップ選手を数多く輩出

 現在、花咲徳栄高の卒業生で日本のトップで活躍している選手は枚挙にいとまがない。2014年世界選手権に出場した岡倫之(現新日本プロレス)に始まり、2017年世界選手権5位の中村倫也(現総合格闘家)、2018年アジア大会(インドネシア)出場を果たした奈良勇太(警視庁、2024年のパリ大会代表の石黒隼士(自衛隊)、同大会にサモア代表として出場した赤澤岳と続く

 2028年ロサンゼルス・オリンピックでのメダル獲得が現実味を帯びる吉田アラシ(三恵海運)を含め、いずれも花咲徳栄高で土台を築き上げた。

 高坂監督は「僕は高校の3年間は人間性を鍛えるべきだと考えています」と主張した。「レスリング力だけではなく、人としての土台作り。あいさつとか、時間を守るということを、きちんとできる人間になってほしい」

▲練習に参加した吉田アラシに挑む選手

 取材時、最寄り駅の花崎駅から花咲徳栄までの道すがら、下校中の何人もの生徒から「こんにちは」と挨拶された。別に顔見知りであるわけでもないし、求めたわけでもない。自然と声をかける行動に好感を抱いた。

 「人間是宝(これたから)」が、花咲徳栄の建学の精神。「生徒は宝だから、磨いて磨いて、社会に貢献できる人材を育成する、というのが学校の方針です。学ぶというのは勉強だけではなく、学生としていろいろ経験し、その中で楽しいことも辛いことも結果的に人を成長させていく」

高校時代に学んだことは「謙虚になること」(吉田アラシ)

 取材日は練習後にOB総会が開催されるということで、吉田アラシ、石黒隼士、赤澤岳(以上前述)、吉田ケイワン(三恵海運)、向田旭登(東テク)ほかが勢ぞろい。後輩たちに胸を貸していた。

▲OB総会のため集まった卒業生。日本レスリング界を支えるOBも多い

 練習後、アラシに高校で学んだことを聞くと、「謙虚になること」と即答した。「いま自分が勝っているのは、高校での経験があったからこそだと思う。なかったら、勝てていなかった。本当にありがたい。だから今日も恩返しにやってきました」

 花咲徳栄高から羽ばたいた選手たちの胸には、高坂監督や前田コーチからの教えが、今も胸にしかと刻み込まれている。

《続く》