(文=布施鋼治)
「なんか不思議な感覚です」
2026年愛知・名古屋アジア大会第2日、男子グレコローマン97kg級を制した仲里優力(松尾建設)は、アジア大会史上、男子グレコローマンの日本最重量級王者になったにもかかわらず、その喜びを実感していなかった。
「ぶっちゃけていうと、試合前は優勝できると思っていなかったので」
無理もない。トーナメントの組み合わせが決まった時点で、仲里は「くじ運が悪いな」と思うしかないほど、厳しいブロックに入っていた。「初戦のカザフスタンの選手も、(勝ったら当たる可能性の高い)イランの選手も、自分より格上の選手でしたから」
今年4月のアジア選手権では、そのカザフスタンの選手(イスラム・イェブロエフ)にわずか58秒で0-8のテクニカルスペリオリティー負けを喫していた。今回も厳しい闘いになることは容易に想像できた。
もっとも、この日の仲里はまるで別人。組み合っても決して力負けすることなく、ステップアウトで着実に点数を加算していく。第2ピリオドになると組んで崩して10-0のテクニカルスペリオリティ勝ちをおさめた。
なぜ、アジア選手権のときとは真逆の展開になったのか。その理由のひとつとして、仲里は“自国開催の利”を挙げた。「自分の実力で取ったとは思っていないですね。運もひきつけたし、応援してくれ、支えてくれる人がたくさんいたので、いつもの2倍ぐらいのパワーが出たんじゃないかなって思っています」
仲里がマットに上がると、観客席からは「優力、チャチャチャ(ロケット風船をぶつけ合う音)」が飛んでいた。
「もし、これが海外でのアジア大会だったら、たぶん負けていると思う。あの声援で自然とパワーがみなぎってきたんですよ」
声援の後押しだけではない。アジア選手権での一方的な敗北によって、仲里は「変わらなきゃ」と奮起した。「アジア選手権のフリースタイル97kg級では吉田アラシが優勝して、もう『日本の重量級は勝てない』とは言えなくなってきたじゃないですか。それに、グレコローマンでは1階級下の吉田泰造(日体大)も優勝している。後輩も活躍していて、自信はなかったけど、悔しくて、もう負けたくなかったんですよ」
仲里は4月から専門のトレーナーをつけてもらい、週2回、フィジカルトレーニングをするようになったという。「それまでもやっていたけど、いわゆる気持ちのいいトレーニングをしていたんですよ。自分で『よく頑張った』と思える程度の。でも、人に見てもらうと妥協できないし、記録をどんどん伸ばしていかないといけない。それプラス、きついマット練習もやっていましたからね。その成果がようやく出たんだと思います」
初戦で強敵を破った勢いで、準決勝では今年のU20アジア選手権で優勝しているアミルサン・モハマディ(イラン)を5-4で撃破。決勝ではアジア選手権2位のニテシ(インド)と激突した。第2ピリオド序盤で左ひざを負傷するアクシデントがあったが、相手に悟られることなく、4-0で下した。
「自分の方から振ったとき、ひざが抜ける感覚があった。試合を止めてもらい、ドクターに診てもらおうと思ったけど、相手を休ませたくなかった。それに、応援が本当にパワーになっていて、ひざはカクカクしていたけど、闘い抜くことができた。今になって、痛みは出てきていますけど」
同階級の外国勢とぶつかっても、パワー負けしないフィジカルを身につけたことで、アジアの頂点を制することができた。左ひざの回復具合が気になるが、次の闘いは世界選手権(10月24日開幕、カザフスタン)。世界を舞台に、一気に飛躍できるか。
フリースタイルとともに、グレコローマンの97㎏級でも「もう日本の重量級は通用しない」とは言わせない。