総合格闘技団体「パンクラス」(福井幸和社長)の招へいで、全競技を通じて初めてオリンピック5連覇を達成したミハイン・ロペス氏(キューバ)が来日した。「PANCRASE CUBA PROJECT」の代表に就任し、今後はキューバでのアマチュアMMA振興に尽力する。一方、滞在中に全日本学生レスリング選手権が行われていた駒沢体育館を訪問。日本選手の激戦を観戦するなど、レスリングへの情熱も健在。
「パンクラス」のご厚意によってインタビューの機会をいただき、レスリングへの思いを聞いた。(8月28日、東京・渋谷のパンクラス事務所。聞き手=樋口郁夫、布施鋼治)
--今の立場、肩書は何でしょうか?
ロペス キューバの国会議員です。あと、キューバの英雄という肩書も持っています(笑)。
--パリ・オリンピックで5連覇を達成したときの気持ちを教えてください。
ロペス 日々のトレーニングの積み重ねと努力が実ったと思いました。歴史に残る偉業となり、信じられない気持ちでした。
--東京オリンピックの直後は次に出ることを明言していませんでした。いつ頃、パリ・オリンピックへの出場を決めたのでしょうか。
ロペス 東京オリンピックのあとは引退も考えていました。しかし、翌年の世界選手権にゲストとして招待され、選手が闘う姿を見て心が動きました。私が5連覇を成し遂げれば、それはすごいことだと思うようになり、それがモチベーションとなって続行を決めました。
--5連覇へ向けてのプレッシャーは?
ロペス まったくありませんでした。私はレスリングを愛していて、このスポーツをやることに日々楽しさを感じながら努力をしてきました。どのオリンピックでも、また5連覇がかかろうが、プレッシャーは感じません。楽しいから目指したのです。
--一般的に、オリンピックで優勝すると、そのあとモチベーションを上げるのが難しいと言われています。どうやって、その都度、モチベーションを上げたのでしょうか?
ロペス 金メダルを取ったあと、家族を第一優先に置きました。その中で、やはり、歴史に残る結果を残したいと思うようになり、それがモチベーションでした(注=家族の応援がモチベーション、という意味と思われる)。
--2023年の世界選手権で、パリ・オリンピックの出場権を取ったのはオスカル・ピノでした。彼と国内で闘ったのでしょうか? それとも、彼が出場を譲ってくれたのでしょうか?
ロペス キューバでは、その選手の実績によってコーチが世界選手権やオリンピックの出場を決めています。東京オリンピックのあと、ピノは世界選手権に、私がパリ・オリンピックに出場することになりました。ピノは世界選手権で通算4個のメダル獲得して、私にパリの出場を譲ってくれました。
--ライバルのリザ・カヤルプ(トルコ)がドーピング違反でオリンピックに出場できなくなりました。そのときのお気持ちは?
ロペス オリンピックの前にハンガリーで合同練習していました。競争心を高めてくれる相手であり、パリで闘うことは、私たちだけではなくレスリング界にとってもプラスになると思いました。出場しないと分かったとき、とても残念でした。彼が出ないことで、私の優勝の可能性が広がったわけですが、素直に喜べなかったです。彼も長年努力し、パリを目指していただけに、残念だったと思います。
--日本人は、平均して欧米人より筋力が劣っています。その中で、世界で勝つために必要なことは、何でしょうか?
ロペス 日本のレスリング選手は全世界から尊敬されています。欧米の選手と比べて筋力が足りないとしても、それが勝負を左右することはないと思います。筋力の強弱は関係ないでしょう。チャンピオンになろうとする意識、闘うときの理性や賢さが大事な要素です。どれだけ頭が切れるかと、いい意味でのずる賢さが融合したとき、チャンピオンになれると思います。日本でも多くの選手がチャンピオンになっています。チャンピオンになるという強い意志があったから、成し遂げられたのではないでしょうか。
--最近、キューバのレスリングは衰退しているように見えます(関連記事)。原因と対策は?
ロペス 国の情勢もあり、優秀な選手が競技を続けられなくなったりしていることが大きいです。彼らを呼び戻すための政策と環境が必要です。その中でも、まだ優秀な選手はいますので、彼らを国際舞台に戻すため努力を続けます。
--なぜ、キューバでMMAを始めようと思ったのでしょうか?
ロペス パンクラスの福井社長と会い、MMAのすばらしさを感じました。キューバでMMAを実際に見たことのない選手に見せ、アマチュアMMAを普及させ、キューバの選手に世界で活躍してほしいと思いました。それによって、世界のMMAの発展につながると思います。
--MMAにおけるレスリングの有効性について、どう考えていますか?
ロペス レスリング選手は、メンタルとフィジカルの面で、鍛え方が違います。上半身を使った闘いであるグレコローマンの技術を持っているかどうかで、MMAでの闘いが大きく違ってくると思っています。フリースタイルは体の全体を使いますが、グレコローマンは上半身の闘いであり、その鍛え方はMMAでも有効と確信しています。