前述の西村盛正さんが宮崎日大高の“出世頭”第1号となるが、最近でもオリンピック出場に近づいた選手がいる。自衛隊の選手として2015年全日本選手権・男子フリースタイル57kg級2位の川野陽介だ。
同選手権は翌年のリオデジャネイロ・オリンピック代表選考会で、同年の世界選手権代表の高橋侑希(現同大学講師)が本命、大会4連覇を目指す森下史崇と10月の国体で森下を破った19歳の樋口黎(現ミキハウス)が対抗という状況。川野の殊勲を予想した人は皆無だった。
しかし、2回戦で高橋を撃破する大殊勲。決勝で樋口に屈し、オリンピックへの道は閉ざされたが、高校時代は全国大会ベスト16だった選手が、インターハイ3連覇の高橋を破った殊勲は特筆すべき活躍だった。
川野に続くべく卒業生の誕生が望まれるが、同部には現在、すでに全国的に有名になっている選手がいる。
3年生が引退し、この夏から主将を務める長野塊王選手。TBSで1997年から断続的に続いている人気&長寿番組「SASUKE」(障害物をアクションゲームのようにクリアし、4つのステージの完全制覇を目指す巨大フィールドアスレチック)のレジェンドである長野誠さんのご子息。中学2年で出場した2023年の第41回大会で、第1ステージ史上最年少クリアを、第43回大会でも最年少で第2ステージをクリアし、注目を浴びている。
「SASUKE」は、障害物レースとしての難しさがあり、スポーツの一流選手が参加しても完全制覇は至難の業。運動神経がいいだけではクリアできず、熟練が必要。この番組から派生した「オブスタクルスポーツ」が、2028年ロサンゼルス・オリンピックの近代五種に馬術に代わって実施されることになっている。
2006年の第17回大会で、史上2人目の完全制覇を達成したのが漁師だった長野誠さん。その血を受け継いだ長男・塊王選手も参加するようになり、父親譲りの驚異的な身体能力で、連続して快挙を達成した。
「長野塊王」と検索すると、「父親譲りの整ったルックスや爽やかな雰囲気、そして高い実力から『イケメン』と多くのファンから注目を集めています」との説明も出てくるほどで、レスリングの枠を超えた“有名人”。高校へ進んでレスリングを始めた、というニュースも流れ、知名度の幅広さでは今の高校レスリング界のナンバーワンと思われる。
4月のJOCジュニアオリンピック(横浜市)では、2回戦で昨年の1年生インターハイ王者の薬野柑太(東京・自由ヶ丘学園高)と対戦。キャリアの浅さを露呈して1分足らずで敗れたが、並外れた運動神経にレスリングの技術が加われば、今後、どこまで伸びるか分からない。
長野は延岡市の小中学校時代、近くにあったキックボクシングのジムに通うなど「格闘技が好きだった」と言う。中学時代にオープンスクールに参加してレスリング部の存在を知り、高校で取り組むことにした。打撃格闘技の選手が組み技格闘技に取り組むのは珍しいが、オリンピックでのレスリングの活躍は知っており、興味があった。総合格闘技への道も考えており、そのためにもレスリングに取り組んだ。
「毎日きつい練習ですけど、強くなっているという実感はあります。チームの雰囲気もよく、楽しくやっています」。新任の比江島監督の練習はかなりハードだと言うが、確実にレベルは上がっており、1年3ヶ月の経験で、キッズからやっている選手と互角近くにできるようになったと のこと。
インターハイ予選は3位。「来年こそは(本戦に)出場したいと思います」と言う。そのために必要なことは、パワーをつけるとともに、「寮に帰ってからの自主練もしっかりやること」と前を向いた。
今年のインターハイは「出場なし」に終わったものの、昨年のインターハイには女子68kg級の加藤心春が出場して3位に入賞。女子の道を切り開いたことも特筆される。今年も寺原蒼依と中学3年生の外山青空(そら)の2人が在籍。高校3年生の寺原がインターハイ予選を機に引退し、取材日は外山がただ一人、男子選手の中で練習していた。
小学校6年生のとき、知り合いに誘われて近くのキッズクラブの体験教室に参加してレスリングをスタート。レスリング部のある宮崎日大中を選んだ。1年目の全国2大会は組み合わせのよさもあってともに3位に入賞し、串間フェスティバル大会で優勝している。高校卒業まで3年以上あるので、「自分の技術をもっと磨いて、全国優勝を目標に頑張りたい」と話す。ただ、女子一人は「ちょっと寂しいですね」と笑い、来春の女子選手の加入を望んでいる。
比江島監督は、西日本の大学で指導を続けていた指導者として、西日本の大学の隆盛を願う気持ちは強い。九州や関西の大学へ行ってレスリングを続ける選手を育てるのが当面の目標。加えて、日大への“内部進学”制度もあるし、自らの母校の日体大へ選手を送ることもできる。
そうした積み重ねの先に「いずれは、全国さらには世界で活躍できる選手を育てていきたい」と、長期的な希望を話した。比江島体制が花開くのは、いつか?
《完》