日大の23年ぶりの優勝で終わった2026年東日本学生リーグ戦。一部リーグ12大学の「闘った全試合(不戦勝・不戦敗を除く)の勝率」という観点で見ると、2位の山梨学院大が.776(38勝11敗)で、日大の.711(32勝13敗)を上回る。日大の勝率は12大学中、3位の成績。では、日大を上回る2位は?
答は一部Bグループで4位となり、全体で7位の早大。20勝6敗の成績で、勝率は.769。負けた6試合のうち、同スコアか1点差での黒星が4試合。そのうちの1試合でも勝っていれば勝率は.808となり、山梨学院大を超える数字となった。
そんなチームが7位となった理由は、57kg級と61kg級に選手が不在で、この2階級は全試合、不戦敗だったからだ。さらに、今年4月に79kg級でアジア王者に輝き、5月の明治杯全日本選抜選手権でも勝って世界選手権代表となったガレダギ敬一が負傷し、ケガの悪化を避けて日大と日体大の強豪相手には出場を控えた。
「たられば」を言っても仕方ないし、けがも実力のうちだが、パリ・オリンピック王者を破ってアジア王者になったガレダギがベストコンディションで出場していれば、チームスコア3-4で敗れた日大に勝った可能性もある。悔やまれる部員不足と、エースの負傷だった。
一部リーグで2階級を欠いているチームは早大のみ。いくつかの推薦制度があり、全階級そろっても不思議ではないが、巡り合わせもあり、現在の部員は6選手。2024年に両スタイルにわたって全日本選手権でメダルを獲得した掛川零恩主将が負傷で戦列を離れたため、今年のリーグ戦は5人での闘い。それでファイナルステージへの進出もありえた成績を残したのだから、賞賛されるべきリーグ戦だった。
岡田英雅監督は、チームスコア2-5で敗れた日体大戦でも、86kg級に出場した新人の秋保大地(東京・文化学園大杉並高卒=昨年の全国高校選抜大会王者)が4年生を相手に終盤までリードする展開だったことを挙げ、レギュラー5選手の実力は優勝を争うチームの選手と「遜色ない」と言う。
明治杯全日本選抜選手権の男子で、1大学から学生2選手が優勝しているのは早大だけという事実(ガレダキと92kg級の金澤空大)から、「5人で十分」というスローガンは決してオーバーな表現でないことを強調。現チームは、これまでにない実力者ぞろいであることをアピールする。今年のリーグ戦に出場した5選手は1~3年生。軽量級の強豪新人を求め、来年のリーグ戦での上位進出を目指す腹積もりだ。
その先には、2031年に迎える創部100周年の区切りが待っている。1931年に八田一郎氏によって創部された早大レスリング部は、1932年に創設された日本レスリング協会の歴史より古く、日本レスリング界の根幹を形作った。
戦後はやや低迷したが、個人では日本男子で唯一のオリンピック4度代表の太田章ら強豪選手を輩出。2000年に日体大卒でアトランタ・オリンピック銅メダリストの太田拓弥氏をコーチに招へいし、2008年に全日本学生王座決定戦(注=現在はやっていない団体戦)で初優勝を達成して古豪復活の狼煙(のろし)をあげた。
その後、2010年に62年ぶりに東日本学生リーグ戦で優勝し、翌2011年に連覇。2013年に全日本大学選手権・大学対抗得点を制し、強豪の一角を占める存在になった。
部員が少なくなった要因は、いくつか考えられる。まず、レスリングの実績があれば、だれでも合格する制度でないことがある。合否発表が11月になってしまうことで、春から夏に内定を出す大学に比べると不利は否めない。加えて、「合格へのハードルが非常に高いと思われている」(岡田監督)という固定観念が、選手集めに四苦八苦する要因だ。
最近はシニアの日本選手が世界の舞台で好成績を残しているので、高校時代からオリンピックを意識する選手が多い。高校時代からオリンピック出場を本気で考えている選手にとっては、男子では1992年バルセロナ大会を最後にオリンピック選手が生まれていないという事実も選択肢から外れてしまう原因。
日体大や山梨学院大、日大に行けば、オリンピックや世界選手権に出場した選手がOBとして練習に参加しており、相応の実力を持っていれば毎日のように練習できる環境にある。今の早大では、それができない。
部員が少ないという事実も、向上心をもって大学に進む選手にとってはマイナスイメージ。対人競技は、いろんなタイプの選手と練習することが必要。多くの部員の中で、多くの選手と練習することで上を目指すことを考えるのは、当然のことかもしれない。
岡田監督は、そのひとつひとつについて、誤解があるというか、高校の選手や指導者に正しく認識してっほしいと訴える。
学業の評定平均「3.5以上」という成績は、決して高すぎるものではない。岡田監督は「受験生には、必ず受験対策を指導します」と説明し、早大に関心を示してくれた高校生には、受かるための努力を惜しまないと言う。
最近はオリンピックに出場する選手が生まれていないが、世界選手権には断続的に出場。重量級で世界選手権代表・アジア選手権3位になっている石黒峻士(MTX GOLDKIDS=日大卒)が頻繁に練習に来てくれるし、昨年は尾西大河、今年は前述の通りガレダギ敬一と金澤空大が世界選手権に出場。ガレダギにはアジア王者の実力を持って世界の優勝戦線への浮上を期待している。
2010・11年にリーグ戦を制したときや、2013年に全日本大学選手権で優勝したときも、全階級で選手がそろっていたものの、道場に選手が“あふれている状態”ではなかった。岡田監督は「部員が少ないことのメリットもある」と言う。指導者と選手、あるいは選手同士の距離が近くなるので、親身になった指導ができることを挙げる。いわば、“その他大勢”という選手がいないわけで、監督やコーチ、参加してくれるOBの指導を受ける機会は、大所帯のチームより多くなる。
練習後は毎日、全部員が集まってその日の練習を振り返っての反省会を実施。上級生と下級生が垣根なしに技術を話し合い、課題の克服を考える。大勢の中で、休みなく息の上がる練習をすることだけが、強くなるための練習ではない。
IT技術にたけている岡田監督の方針で、練習では常時4方向からのビデオ撮影を行っており、部員のスマホでも見られるようにセットされている。「練習直後、あるいは合宿所に帰ってから、その日の練習を振り返っているケースもあります」と岡田監督。大学選手に必要なことは、猛練習だけではなく、“考えるレスリング”であることは言うまでもない。