(「上」から続く / 文・撮影=布施鋼治)
もうひとつ上のレベルのレスリングを-。6月8日、大体大で実施された三恵海運レスリング班の“出張訪問”。大体大や大体大浪商・中高の部員たちは、吉田アラシを筆頭とする所属の選手たちと実際に触れ合い、社会人レスラーの強さを体感することを心待ちにしていた。
もうひとつ楽しみがあった。アラシの組み手と差しに特化したテクニック講座だ。例えば組んで相手の頭を落とす攻撃、レスリングではよくある動きだが、アラシは「落としただけで、終わってしまう人もいる」と指摘する。
「レスリングの試合時間は6分間ある。僕は試合時間を見て、(その時点での)相手のスタミナが削られているかどうかも見極めるようにしている。
テクニック講座のとき、練習パートナーは兄の吉田ケイワンが務めた。身体のサイズが合い、弟の動きやリズムを熟知しているからだけではない。より正確な言葉で解説するのを補助するためだ。
「弟が技の指導をするとき、言語化が必要なときもかなりある。相手が中学生や高校生となると、同年代に話すより、分かりやすく説明しないとうまく伝わらないじゃないですか」(ケイワン)
関西重量級期待の男子フリースタイル125kg級の長谷川大和は、テクニック講座でケイワンを相手にしてアラシの指導を直接受け、その後はアラシとスパーリングする機会にも恵まれた。実際体感したU23世界一&アジア王者のアラシの「スピードと崩しがすごく、反応できませんでした」組み手はどうだったのか。
重量級だけではない。この日は昨年12月の全日本選手権・男子フリースタイル57kg級で高校生ながら5位に入賞した古澤大和(昨年のインターハイ王者)もアラシと組み合い、世界に通用する組み手を肌で感じた。「練習に対する姿勢や考え方を、よく聞けたのでよかった」
印象に残っているアラシからのアドバイスは? 「人は一回押したらはね返ってくることです。人間の仕組みというか、そういうことを利用した組み手をしっかり考えていることを知りました」
そう語る古澤の従兄弟で、今春、兵庫・芦屋学園高から大体大に入学したU17世界選手権・女子55㎏級銅メダルの棚田紗雪は、61kg級全日本王者の長谷川敏裕から熱心に技術指導を受けている姿が印象的だった。
何を聞いていたのかと水を向けると、棚田は「ローシングルの処理」と声を弾ませた。「自分はローシングルに入ってからの処理が、いつもなかなかスムーズにいかず、点数につながらないときもある。入ってから点数につながるまでの処理の部分を教えていただきました」
アラシは大学生のみならず、高校生や中学生の食いつきに目を細めた。「技術練習に関していえば、みんな吸収が早くて、さすが(大体大の)湯元健一監督が教えている選手だな、と思いました」と言う。
スパーリングでは、「男子も女子も本当にみんな気持ちが強い。自分が高校生のときとは、ちょっと違いますね。その頃の自分は、大学生とやるときには怖じ気づくところがありましたから(苦笑)。でも、大体大の選手は遠慮なくどんどん向かってくる。中高大と一貫して練習していることで、中学生なら高校生と、高校生なら大学生とふだんから練習していて、上の世代の人たちとやることに慣れているからですかね」
この日、習った技術をすぐにはモノにできなかったとしても、確実に選手たちの刺激になったのではないか。取材をしていて、強くそう思った。