(文・撮影=布施鋼治)
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「高知市内の高校への進学もちょっと考えたけど、地元で強くなることに価値があると思い、宿毛(すくも)高校に進学することにしました」
そう語るのは、高知・宿毛高校レスリング部の大串一央(1年生)だ。何を隠そう、同校レスリング部の部員は大串のみ。新入生でありながら、先輩はいない。それでも、なぜあえて地元の高校に進学したのか?
「僕にずっとレスリングを教えてくれている(すくもレスリングクラブの)頼田匡平代表やチームメイトとも、これからも一緒にやっていきたいという気持ちも強かった」
その言葉通り、大串の周りには仲間がたくさんいる。「高校生は自分ひとりということで、寂しさを感じることもあるけど、ウチの部のマネージャーは元選手なんですよ。それに宿毛工業高校でレスリングをやっている西山大翔さんも一緒に練習していますからね」
生まれも育ちも宿毛という大串にとって、地元はかけがえのない場所だ。「田舎(いなか)なので不便なところもあるけれど、普通に生活はできます。東京にはないようなお祭りだったり、きれいな川で泳いだり、アウトドアも楽しめる。そういうところが宿毛の良さだと思いますね」
宿毛の魚について聞くと、大串は「めっちゃうまい」と身を乗り出しながら話し始めた。「宿毛の大会で副賞が魚ということもありますね。ほんまに世界で一番うまいと思います。何がおいしいかといえば、ときと場合にもよりますけど、今だったらオオモンハタ(白身で上品な脂が乗った高級魚)しか食べないですね」
クラブの支援者や親戚には漁師もおり、大串や所属するキッズレスラーたちも漁船に乗せてもらうことがあるという。
「遠い将来、そういう仕事をするのもいいかなと思うときはあります。一応、今の志望は公務員ですけど」
楽しく充実した宿毛ライフの一方で、高知県の人口減少は避けて通れない。宿毛高校もご多分にもれず、生徒数は各学年とも105名の定員だが、現在は各60名程度と、定員割れの状態が続く。この現実を大串はポジティブに捉えている。
「生徒数が少なくなった分、ひとり一人が注目される機会は多くなっていると思う。自分の場合、レスリングで成績は残していると思うので、60名の中でも目立った存在として宿毛をアピールしていきたい」
そんな大串の耳には、母校と宿毛市レスリング協会の連携協定の話も入っている。ひとりのレスリング部部員として、地元のレスリング活性化には諸手(もろて)を挙げて賛成する。
「宿毛市でレスリングはまだマイナーな競技だけど、活躍すれば今まで以上に表に出る機会が増えてくる。自分としてはうれしいですね」
連携協定によって市外から新たな部員を呼び込むことができれば、大串は「たった一人のレスリング部部員」から卒業できる。「もちろん高校生の仲間はほしい。今でも同級生に声をかけるけど、『露出が多いから、シングレットはイヤ』と言われたりして、なかなか入ってくれない」
同級生だけではない。「すくもレスリングクラブ」に属するキッズ・レスラーからは、中学、あるいは高校に進学するときの壁を感じている。「仮に宿毛高校に入学したとしても、中学卒業とともに区切りをつける子も出てくると思う。でも、僕らはクラブの伝統を代々引き継いでいるので、個人的には続けてほしい」
風光明媚な観光スポットが多い宿毛のレスリングクラブの特色を挙げれば、幼稚園児から高校生まで幅広い年齢層が同じ空間で一緒に練習することだろう。
筆者が取材したとき、最年少はふたりの小学3年生だったが、打ち込みやスパーリングになると小学校高学年や中学生たちが相手をしていた。チームワークも、「すくもレスリングクラブ」の大きな力になっていると感じた。
大串はひとりぼっちだけど、ひとりぼっちではない。