やはり、「出る杭は打たれる」のか-。2026年アジア大会最終日、優勝が期待されていた男子フリースタイル97kg級の吉田アラシ(三恵海運)は、準決勝で昨年の世界選手権2位のアミラリ・アザルピラ(イラン)に黒星を喫し、優勝を逃した。
3位決定戦に回り、シャトリク・ヘメリャエフ(トルクメニスタン)をテクニカルスペリオリティで撃破し、銅メダルは確保した。
アザルピラとは、1勝1敗とイーブンの星を残していた。今年4月のアジア選手権では吉田が勝利をおさめているので、ラバーマッチ(決着をつけるための3度目の試合)となった今回の一戦は、吉田の方が精神的に優位かと思われた。しかし、アザルピラはアジア選手権での敗北がよほど悔しかったのだろう。徹底的な“アラシ対策”を立てていた。
吉田が得意の場外へのステップアウトを狙っても、うまく回り込んで押し出されない。卓越した身のこなしを見せたのは、吉田がステップアウトに成功したと思いきや、場外に押し出される瞬間にジャンプし、吉田の方が先に場外に足を出してしまうという、第三者には想像もつかないテクニックを披露した場面だろう。
吉田が得意の組み手で試合のリズムをつかもうとしても、手を伸ばすなどして、思うようにさせない。吉田がタックルに行くや、アザルピラはつかまれる瞬間に身体を入れ替えるようにしてバックを奪う場面もあった。
吉田は「対策されてくることは重々承知していた。それ以上に対策されていた」と明かす。「差しもできなかったし、プレッシャーをかけることができない。いなされてしまったこともあると思うんですけど、自分の攻撃をうまく生かすことができなかったです」
台頭する選手がいれば、その選手のテクニックやくせが徹底的に研究され、次の大会には対抗策や防御策が披露される。いつの時代も。レスリングの攻防はそうして発展してきた。吉田も綿密な対策を練られる対象になってしまったということか。
それでも、スタミナは吉田の方が上。第2ピリオド、アザルピラは失速してしまう場面もあったが、そのたびにドクターチェックを要求するなど、必要以上に時間を稼いでスタミナの回復に努めていた。
そのやり口は、あまりにも露骨だったが、吉田が怒って我を忘れることはなかった。「今のところ遅延行為に関するルールはないので。別にルール違反しているわけじゃないですからね」。あまりにも度が過ぎるとコーションを受けることもあるが、アザルピラは老かいで、審判からそう告げられることもなかった。
吉田は「すごい戦術を使ってくるな、と思っていた」と振り返り、「(個人的には)ちょっと面白かったので、思わず笑みがこぼれてしまった」そうだ。もっとも「遅延行為をされたから負けた、ということにはならない。普通に、自分の実力不足だったと感じています」ときっぱり。
今大会では、ここ数年、吉田の活躍に刺激を受けていた男子グレコローマン97kg級の仲里優力(松尾建設)が初の国際大会優勝を果たした。日体大に出げいこに行くと、スタイルこそ違えど同階級の吉田と仲里はよく一緒に汗を流す。今回は、吉田の方が仲里から刺激を受けたという。
「次のアジア大会は4年後になっちゃうけど、これからは仲里さんの背中を追うというか、同じような感じになれればいいなって思っています」
幸い、けがはない。吉田は手綱を締め直して世界選手権(10月24日開幕、カザフスタン)に臨む。「試合数においても、レベルにおいても、世界選手権は圧倒的に高い。大会までの期間は短いですけど、日本代表として日の丸を背負っているので、しっかりと体力作りとか基本のトレーニングを積んでいきたい」
世界選手権までに、外国選手の“アラシ対策”を封じる新たな一手を用意できるか。出る杭が打たれたなら、また新たな杭を作ればいい。