9月21日から27日、2012年岐阜国体レスリング競技の開催地だった岐阜・中津川市で行われた台湾チームの2026年アジア大会事前合宿と国民スポーツ大会へ向けた岐阜県代表チームの合宿。両方の練習で指揮をとったのは、専大時代に主将を務め、2014年世界選手権代表の鈴木聖二さん(37歳)。
現在は、スポーツが持つ可能性をさまざまな分野で発揮し、社会への貢献を目指す「株式会社スポーツ・フィールド」のスタッフ。同社は2021年に東日本学生レスリング連盟初の女性学連委員長となった境美里さん(旧姓宮内)も勤めており(関連記事)、レスリングとも密接にかかわっている企業だ。
指導にフルに携わるわけにはいかないものの、母校の岐阜工業高校で後輩を指導し、今回のような県協会のイベントがあれば、休日をうまく使って参加する。まだ高校生とは互角以上のスパーリングができる年齢なので、岐阜県に在住している貴重な指導者として、同県の発展に貢献している。
個人的には、小学校4年生の長男がキッズ教室(羽島市レスリング連盟)でレスリングをやっており、「クラブの保護者として練習に加わっています。時に岐阜工業高校の練習に連れて行っています」と表情がやわらぎ、成長が楽しみな様子。当分、レスリングとのつながりは切れそうにない。
中学までは野球少年。岐阜工業高校に進んでからレスリングを始めた。恵まれた運動神経で頭角を現し、3年生のとき(2006年)は全国大会の上位に入るほどの力をつけたが、全国高校選抜大会、インターハイ、国体は、3大会連続で中学時代に全国王者のある選手(2年連続高校四冠王者)に敗れて2位。全国タイトルのないまま専大へ進んだ。
1年生秋の新人選手権でその選手に勝って台頭し、最終学年(2010年)には84kg級で全日本学生選手権と全日本大学選手権の二冠を獲得するまでに力を伸ばした。卒業し、岐阜国体(2012年)の国体要員として専大で練習を続けたあと、岐阜工業高校の非常勤講師として地元に戻って選手活動を継続。2014年には97kg級で全日本選抜選手権を制し、世界選手権(ウズベキスタン)出場を果たした。
「当時、高校生との練習がほとんどでしたが、指導することで技術が磨かれた面があったように思います。レスリングそのものが楽しかったというか」。ベースのできている選手にとっては、猛練習だけが強くなる方法ではない。「よく言われる『ベテランの味』という面が出てきた感覚がありました」と振り返る。
世界選手権は初戦でポーランド選手に0-6で敗れ、結果を出せなかったが、6分間フルに闘った意地は見せた。矛盾した理論になるが、地方で高校生を相手に練習するだけでは、世界で勝つことは難しいのが現実。「国内では技術で勝てても、世界で勝つには体力。その部分が足りなかったですね」と振り返る。
2016年リオデジャネイロ・オリンピック予選だった2015年12月の全日本選手権で3位に終わり、オリンピック出場の道は途絶えた。その後、2017年全日本選手権(92kg級)で2位に入ったりもしたが、「練習環境の問題だけではなく、年齢的にもきつくなった」と、2018年国体を最後にマットを完全に下りた。
レスリング人生を振り返ってみて、「高校からレスリングを始め、学生チャンピオンや日本代表になれたことは、よかったです。そこで学んだことが、指導に生かされています」と話す。84kg級時代は松本真也や松本篤史という壁があり、97kg級へ上げたあとは同郷の後輩になる山口剛(中津商高出身)が台頭していたので挑み、必死に努力した道のりに悔いはない。
闘っていたフリースタイル97kg級は、現在、吉田アラシ(三恵海運)が世界一を目指している階級。「どんな思いで見ていますか?」との問いに、「異次元のことと思っています」と即答して苦笑い。体力があって、押して引いて、崩して、場外に出して、テークダウンを取りにいくという理想的な闘いをしていると分析。「あの闘いをやられたら、勝てないですね」と、同時代の選手でなくホッとしている様子だ。
吉田アラシに限らず日本重量級のレベルアップは頼もしい限りだが、おひざ元の岐阜県は、グレコローマンでは世界王者が誕生しているものの(2021年・松井謙=中京高~日体大卒)、フリースタイルでは自分と山口剛(前述)のあと世界選手権に出場した選手が出ていない。高校の実力も今ひとつだ。
「毎日指導しているわけではないので、大きなことは言えない」と、やや声が小さくなったが、高体連の登録者数は岐阜県がナンバーワンと聞かされると(クリック)、「ベースはあるんですね」と目が輝いた。高校からレスリングを始める選手が多いので、「高校で結果を出すのは難しいでしょう」と話す一方、「キッズ出身選手とうまく混ざり合うことで、よりよい練習環境ができればいいな、と思います」と、飛躍を願った。
長男が高校を卒業するまで(あと約10年)スパーリングができる体力を維持するのが目標。昨年と今年は全日本マスターズ選手権にも出場し、今年は優勝した。いずれ世界ベテランズ選手権に出場し、かなわなかった世界チャンピオンの座を手にすることもあるかもしれない。
全国一の高校選手数だけでなく、女子では小川凜佳(中津川ジュニア~中京高~育英大)がU20世界チャンピオンに輝き、明るい材料がある岐阜県のレスリング。世界選手権出場経験のある鈴木聖二さんの存在は、頼もしい限りだ。