2026.09.26NEW

【特集】日本の選手・コーチは「レスリングをリスペクトしています」…台湾コーチに聞く

 愛知・名古屋アジア大会に出場する台湾チームが、9月21日から若い世代の選手とともに岐阜・中津川市で事前合宿を行っている。チームを指揮する張育軒、陳振煜の2人のコーチに、台湾のレスリング事情を聞いた。(聞き手=樋口郁夫、通訳=内山リエホ/2人の回答の識別が難しく、2人での回答も多かったので、「張育軒/陳振煜」としました)

▲アジア大会での健闘を誓う陳振煜コーチ(左)と張育軒コーチ(中)。右は通訳の内田内山リエホさん


愛知・名古屋アジア大会ではメダル獲得が目標

--アジア大会の目標をお聞かせください。

張育軒/陳振煜 アジア大会では、まだメダルを取ったことがありません(女子は2002年大会の4位、男子は2018年大会の5位が最高)。メダルを1個でも取ることが目標です。

--そのために、どんな強化をやってきましたか?

張育軒/陳振煜 今回のアジア大会代表チームは、選手の人数が比較的少ないため、外国へ行って練習することが多かったです。階級によって、遠征させる国を変えてきました。重量級は米国、軽量級は日本など。外国で鍛えてきました。

--日本以外、どんな国との交流がありますか?

張育軒/陳振煜 米国、スウェーデン、トルコ、ベトナム、韓国、モンゴル、中国などです。

--中国へ簡単に入国できるのですか?

張育軒/陳振煜 協会同士では相互交流がありますが、中国の代表チームとの合宿に参加するとなると、手続きなどが複雑になります。

--オリンピック出場は、予選があるので台湾選手にとって非常に厳しいのが現状だと思います。本気になってオリンピック出場を目指している選手は、どのくらいいるのでしょうか?

張育軒/陳振煜 予選通過は難しいので、少ないのが現状です。

▲練習を見つめる陳振煜コーチ

オリンピック出場に必要なことは「強い気持ちと誇りだと思います」

--2028年ロサンゼルス・オリンピックから、出場選手に対して1万ドル(約157万円=約31万7,000ニュー台湾ドル)の出場料が出るようになりました。それは、選手のモチベーションになっていますでしょうか?

張育軒/陳振煜 刺激になっていることは間違いないでしょう。でも、予選を通過しないとなりませんから(笑)。

--台湾で1万ドルは、どのくらいの価値でしょうか? 日本では、学生では簡単に稼げない金額です。

張育軒/陳振煜 人によりますね。コーチの立場から言わせてもらうなら、お金を目当てにするのではなくオリンピック出場を目指してほしいと思っています。オリンピックに出場するために一番必要なことは、出場したいという強い気持ちと誇りだと思います。

--ロサンゼルス・オリンピックの予選システムが変わりました。最終予選は、それまでに出場枠を1枠も取っていない国が集まっての予選会になります。その変更は、台湾にどんな影響をもたらしますか?

張育軒/陳振煜 メリットは大きいです。前回までなら出場できなかった(レベルの)選手に、出場の可能性が出てきました。いい予選システムの変更だと思います。

--コーチや選手の気持ちは盛り上がっている、ということでしょうか?

張育軒/陳振煜 そうです。

--まず、東南アジア選手権で好成績を目指すのが、目標でしょうか?(注=「最初のステップとして」という意味で聞いたが…)

張育軒/陳振煜 いいえ、アジア大会やアジア選手権、さらにオリンピックでの好成績を目指しています。

▲シニア世界選手権出場の経験もある張育軒コーチ

国全体としてスポーツに打ち込める環境がほしい

--台湾の女子レスリングは、いつ頃から始まりましたか?

張育軒/陳振煜 詳しくは分かりませんが、30~40年前からやっていると思います。最初は柔道の選手がレスリングの練習をやって、レスリングの試合に出ていたようです。

--記録を調べてみると、1989年の第2回世界女子選手権(スイス)に出ています(47kg級は台湾選手が優勝)。これは柔道選手がレスリングをやって出場したのですね。

張育軒/陳振煜 そうだと思います。

--柔道から独立して、本格的に女子レスリングがスタートしたのは、いつ頃でしょうか?

張育軒/陳振煜 初期の頃は柔道とレスリングを並行してやっていたことは確かです。いつ頃から、レスリングを専門的にする選手が出てきたのかは、私たちはよく知らないです。

--台湾でレスリングをやる世代は?

張育軒/陳振煜 小学校1年生からやっています。大会としては小学校3年生からです。ただ、高校まで続けて終わる選手が多いです。

--他のスポーツに行ってしまうのでしょうか?

張育軒/陳振煜 台湾のスポーツ環境は、決して恵まれていません。スポーツに打ち込めるのは高校までで、大学ではやらない選手が多いです。社会人になると働かなければならないので、続けることはまれです。そのあたりが、強化のネックです。国全体として、スポーツに打ち込める環境にならないと、世界で通じる選手はなかなか生まれないと思います。

--レスリング協会の上の人は、その状況の打破に尽力しているのでしょうか?

張育軒/陳振煜 努力しています。前の理事長と今の理事長のおかげで、競技人口は倍以上になっています。

--世界選手権などに出場する場合、個人の経済的な負担はあるのでしょうか?

張育軒/陳振煜 大きいですね(笑)。協会も私たちコーチも、支援金や補助金をもらえるよう努力しています。

▲歓迎会で紹介される台湾のアジア大会代表チーム

日本選手は「気持ちが強いです」

--お2人はレスリング経験者ですか?

張育軒/陳振煜 そうです。

--何歳くらいまでやっていて、どのくらいの成績でしたか?

張育軒 23歳までやっていまして、台湾の大学の大会で金メダルを取りました(注=UWWデータベースによると、シニアのアジア選手権や世界選手権出場の成績もある)。

陳振煜 18歳までで、台湾の高校大会で優勝しました。世界カデット選手権にも出場しています。

--これまで選手を連れて日本に来たことは?

張育軒/陳振煜 何度もあります。

--主にどのチームの練習に参加しましたか?

張育軒 日体大に行ったことがあります。

陳振煜 私も日体大に行っています。他に、至学館大、育英大、天理大、安部学院高校などです。

--日本のレスリングの印象は?

張育軒/陳振煜 世界で一番強い、に尽きます(笑)。練習の方法は台湾人に合っていると思います。しかし、台湾の選手が、それについていけないのが現状です。

--日本の選手は体力がある、ということでしょうか?

張育軒/陳振煜 気持ちが強いです。

--日本から学んだことは?

張育軒/陳振煜 技術もですけど、選手はレスリングをリスペクトしていることです。その点が、他の国と比べて一番違う点だと思います。日本には、いろんなコーチがいますけど、どこへ行ってもレスリングに真剣に向き合っています。選手が自主練習に力を入れていることも、台湾と違う点です。小さい子(キッズ選手)が練習するとき、親も練習場にいて、真剣に練習を見ていることも、選手がやる気になる理由でしょう。