日本レスリング界を支えてきた日体大が、強化だけでなく、草の根レベルでの普及に乗り出した。
8月2日、男子の練習場である青葉台キャンパスのレスリング場で、「日体大レスリング体験イベント」を開催。大学生の激しい練習を見学してもらった後、初心者から経験者の約80人のキッズ選手を相手に、西内悠人・総合主将、神谷龍之介・男子フリースタイル主将ほか約20人の学生選手がキッズ選手の練習相手を務めた。
日体大では今年7月から毎週1回、キッズ教室をスタートした。松本慎吾監督は「強化だけでなく、普及にも尽力しようと思ったのがきっかけ。将来、他競技に移ることがあっても、レスリングを通じて体力と身体機能の向上を目指して取り組んでくれればいいと思う」と動機を話す。現在は体験教室のような形だが、「少しずつ形を整えていけばいい」と、焦ることなく進める腹積もり。
そのきっかけとして開催した体験イベント。都内近郊のキッズ・クラブの代表が選手を多く連れて来たこともあり、予想以上の参加となった。普通の体験会と違うのは、トップレベルの大学選手の練習を間近で見せたこと。日体大OBでもある「KURIMORI FILM」の栗森幸次郞代表は「駒沢体育館の観客席から試合を見るのとは違う迫力。選手にとっては大きな刺激」と話した。選手の息づかいが伝わる距離での練習見学は、キッズ選手も感じることがあったことだろう。
練習開始前には、清岡幸大郎(カクシングループ)、文田健一郎(ミキハウス)、日下尚(マルハン北日本)の3人のパリ・オリンピック金メダリストがあいさつ。その後、オリンピックの金メダルを見せ、さわらせるサービス。清岡は「実体験が大事。メダルを見るだけでなく、さわることで意識が高まって目標ができる。高い目標を持つきっかけになればいい」と話した。
練習では、約20人の学生選手が休みなしで選手のスパーリングを務めた。これも、多くの選手を抱える日体大ならではのこと。常に“お兄さん選手”が練習の相手で、キッズ選手同士でスパーリングをやる必要がなかった。
学生選手は、通常の練習直後だけに疲労もあっただろうが、松本監督は「大半がちびっ子時代からレスリングをやっている。だれもが、先人から教わり、あこがれの選手を目標に頑張ってきたから今がある。今は立場が逆。子供たちのために尽力してほしい」と話す。
卒業後は指導者になる選手もいるので、「指導の勉強として、しっかり取り組んでほしい」と注文するとともに、「こうしたイベントや活動を通じて、レスリングだけでなく、いろいろなことを学んでほしい」とも話す。レスリングを取ったら何も残らない学生ではなく、社会人としての育成も目的であることを強調し、これは常日頃から学生に伝えていること。
学生もその思いはしっかりと受け止めているようで、このイベントには自主的に参加した選手がほとんどだという。自分を育ててくれた恩返しをするとともに、レスリング以外の活動にも積極的に参加し、人間としての成長を目指していることがうかがえる。
練習に参加した田島瑶二郎君(東京・ARC=小学校2年)は、父(日体大OB)・兄に続いてレスリングを始めて約3ヶ月。最初に見た大学生の練習は「人数多くて迫力があった」と目を丸くし、自分の練習は「(スパーリングを)10本くらいやった。楽しかった」と言う。
母・友季子さんは、大学生の練習に「地面(床)から伝わってくる迫力と技術力の高さがすごかった。間近で見られるのは、とても貴重。練習では、大学生が子どもたちを相手にもアドバイスしながらやっていただき、うれしかった」と話す。夫はレスリング選手だったが、レスリングのことはまったく知らなかったそうだ。子供のレスリングを見て「魅力的なスポーツだと思うので、もっと広まればいいと思います」と話した。
約2時間近い練習を終え、進行を担当した西内悠人主将は「初めての経験。めちゃ疲れました」と苦笑い。キッズ選手と数多く闘ってみて、自分が小学生だったときより「レベルが高い」と言う。「こんな技もできるの、と思いました。(高知育ちの自分と違い)関東はこうやって高校選手や大学選手とふれあう機会が多いから、技のレベルが高いのですかね。このままいけば絶対に強くなる」と思ったそうだ。
慣れないことで大変だったが、「後進を育てるのも自分たちの役目」と、大役を終えてホッとした表情。
最後まで選手とスパーリングを続けた清岡幸大郎(前述)は、高知クラブでレスリングをやっていたとき、恩師にこうした機会を多くつくってもらったそうで、それが飛躍につながったという。「今回は、自分たちがその機会をつくった。自分が参加することで、子どもたちが頑張ってくれればいい」と言う。
このイベントの価値を、「レスリングのすそ野を広げる意味で大事なこと」と強調し、さらなる目標になるためにも、自身の選手としての健闘を誓った。
なお、小学1~6年生を対象とした「NITTAI CLUB 横浜レスリングスクール」は、毎週土曜日13:30~15:00、健志台キャンパス・レスリング場で実施(月会費6,000円)。今年12月5日(土)には、健志台キャンパスの米本記念体育館・第1アリーナ(観客席あり)で小学生を対象とした「日体カップ」を予定しており、大会運営にも乗り出す。