※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(取材・文=増渕由気子) 逆転フォール勝ちで全国一を奪取した中村拓磨(岐阜・中津商高)
中学時代は柔道部に所属し、高校からレスリングに転向した。中村は「全国タイトルは初めてです。これまで大学に練習に行くなど、きつい練習ばかりで嫌になることもありました。けれども成瀬(一彦)先生の言うことを聞いてよかった。いままでやってきた結果が出ました」と、初タイトルに顔をほころばせた。
ウィークポイントは、立ち上がりに相手のペースに合わせてしまうこと。今大会は、準決勝以外は全試合で失点。しかも初戦は16-7、2回戦は榊流斗(東京・帝京高)に5-4、準々決勝の佐藤佑之介(静岡・飛龍)には8-8の内容差で辛勝と、綱渡りの試合だった。「先生に『自分のペースで』と言われているのですが、できなかった」と反省したが、なぜか失点すると周りが見えてくる。
「ポイントを取られると、相手の動きについていけるようになるんです。後半の体力には自信があります」。決勝戦も0-6となり、あっという間に追い込まれたが、「初戦から追う展開だったので、(それに慣れて)あきらめずにやれました」と焦らず、終盤、一気に攻めたてた。
無尽蔵の体力は、今年から同校に赴任した成瀬一彦コーチとの日々の練習で培ったものだ。成瀬コーチは、日体大時代は学生トップレベルの選手で、2012年の岐阜国体2位の実績を持つ。その監督から徹底的に鍛えられた。「朝練から先生に追いこまれて、スパーリングでも何十本と先生とやってきました」。
勝負を決めたけさ固め
フィジカル面だけでなくメンタル面も成瀬コーチに常に注意されてきた。「僕はグレコローマンが得意なのですが、グレコローマンでも成績がでなくて、レスリングが嫌になって投げ出したくなっていた時がありました」。実際に、8月の全国高校グレコローマン選手権では3位決定戦に敗れて表彰台を逃している。
そんな中村に、成瀬コーチは「レスリングをやっていることが当たりまえだと思うな」と叱責。中村は「何度も注意されているうちに、レスリングに対して真摯に取り組み、素直なレスリングができるようになりました」と振り返る。
成瀬コーチの教えを胸に、大学へ進んでもレスリングをやると決めている。「進学しても、一生懸命練習に取り組んで、日本一になりたいです」―。