2016.08.04

【インターハイ/学校対抗戦・特集】オール静岡で13年ぶりにベスト4の壁破った飛龍(静岡)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=増渕由気子)

 インターハイの学校対抗戦で優勝を狙った飛龍(静岡)は、準決勝で秋田商(秋田)を4-3で下して13年ぶりに決勝に進出するも、決勝で新鋭の日体大柏(千葉)に3-4で敗れ、優勝にあと一歩届かなかった。

 直近3年間で飛龍の安定度は抜群だった。2014年の長崎大会、昨年の京都大会でともに3位。春の全国高校選抜大会では、今年で3年連続3位と、ベスト4の常連として安定した戦力を保ち続けていた。今大会は準決勝の壁を破ったのだから、決勝で競り負けても、井村陽三監督は「うれしい準優勝です。よくやりました」と満足そうに話し始めた。

 決勝では55kg級の片桐大夢が国体王者の山口海輝にテクニカルフォールで勝つと、60kg級の鈴木絢大、66kg級の佐藤佑之介と3連勝し、優勝へ“王手”。優勝を目指せる出だしだった。

 ベスト4の常連として今回も優勝候補の一角とされていたが、井村監督は「実は主力が2人、けがで交代せざるを得なかった。その戦力でベスト4の壁を破ったのだから、褒めてあげてもいいかな」と、アクシデントがあったことを告白した。

 主力の穴を埋めたのは1年生だった。「思った以上にいい仕事をしてくれた。ベストじゃないことで、逆にチームが結束したかな」。1年生が期待以上の仕事すれば、最上級生の片桐や鈴木が燃えないわけがない。逆境をバネにチームがまとまった結果、ベスト4の壁を打ち破った。

■昔ながらの地域密着型の強化で全国の常連に

 最近の強豪チームは、国内留学が当たり前となり、複数のコーチを招へいし、強化方法も、出げいこや合同合宿を行うことが当たり前となってきている。

 そんな中、井村監督は昔ながらのやり方で31年間、チームを一人で切り盛りしてきた。スカウトも地元密着型で、現役部員は全員静岡の中学校から進学した。「1学年4名程度ずつ、地元のキッズクラブと、柔道からの転向者。いずれも希望する人を中心に集めています」と過度なスカウト活動はしていない。

 「僕、スカウト下手なんでね」と苦笑するが、指導力は抜群で、キッズ出身、柔道からの転向者、そして素人と素質もバラバラな選手たちを「選手の個性に合わせた指導を心掛け、型にはめずに、悪い癖を直すだけ」と、立派な戦力として育て上げ、毎年全国の舞台に送り込んでいる。

 強化も特別なことはしていない。「大型バスがないので出げいこ古は、ほとんどしないし、練習も長くない。マットも1面弱と狭いので、他校が来ることも基本ありません」。他校とあまり交流しないのも、指導法に自信があるからできる。指導のこつを聞いてみると「指導に手を抜かないこと。限られた時間で一生懸命やること。集中すること」と返答。これが井村流指導の三原則だ。

 その指導法で、2008年北京オリンピック銀の松永共広(現全日本コーチ)をはじめ、直近ではリオデジャネイロ・オリンピック予選代表の山本泰輝(拓大)も輩出した。

 定年まであと7年。「そろそろ後継者を作らないと」と、若手の指導者を迎え入れたい意向を示したが、定年までにどうしてもやりたいことがある。「春は一度優勝したことがありますが、夏はない。やはり1度は夏で優勝してみたい」―。久々の決勝を味わった井村監督。次は決勝の常連となり、優勝することが目標だ。