※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫) 世代交代を実現し、リオデジャネイロへ近づいた屋比久翔平(日体大)
2回戦でこの階級の学生王者で1学年上の阪部創(神奈川大)を破ったあと、準決勝で昨年の世界選手権5位の清水博之(自衛隊)を撃破。決勝は昨年のアジア大会80kg級銀メダルの鶴巻宰(自衛隊)を3-0で破って優勝という、完ぺきな世代交代だった。
3ヶ月の和歌山国体で阪部を破るなどして初優勝し、シニアを制する予兆はあった。以後、目標を全日本選手権制覇に定めて練習に取り組んできた。
20歳と11ヶ月で優勝し、有言実行の脱ジュニア。父で全日本王者の経験もある保さんと親子制覇も達成し、記録づくしの栄冠だった。保さんは「僕は大学4年で国体を制し、全日本制覇は26歳の時だった。大学3年で息子が両方やってのけた。すごいけど、先を越されて寂しいよ」と言いながらも、満面の笑み。
ただ、オリンピックのキップはこれからということで、気はゆるめていない。「上半身の力がまだないから、もっと練習を」と課題の指摘も忘れなかった。
■左構えと右構えの両方のコーチがいる日体大
決勝の相手の鶴巻も、2004年に20歳にして全日本を制し、以来、10年以上にわたって日本のトップを走ってきた選手だ。2012年ロンドン・オリンピックを逃した後は主戦場を85kg級にしてきたが、リオデジャネイロへ向けて75kg級で勝負をかけてきた。 決勝で鶴巻宰(自衛隊)と闘う屋比久
決勝点となったのは、試合後半、グラウンドから持ち上げてのローリング。「小学校から親父に教えてもらった技だった」。
右構えの清水に準決勝で勝てたことは、「松本(慎吾)先生が右構えで、マンツーマンの指導をしてくれた」と、左構えと右構えの両方のコーチが日体大にいたことが、屋比久の大きな強みになったようだ。
この秋は韓国に向かい、韓国ナショナル・チームと練習を積んだ。元世界選手権王者でアジア王者のキム・ヒョンウともスパーリングを行ったという。「押されはしたけど、勝てない相手ではないと思う。アジア予選は1度目で決めたいです」。
この階級は、旧74kg級を含めて、この10年間、鶴巻、金久保、清水の時代だった。そこに割って入ってきた東京オリンピックのターゲット選手、屋比久。この勢いでリオオリンピックを一気に決められるか―。