※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫) 激戦の末の勝利に顔を覆った渡利璃穏(左=アイシン・エィ・ダブリュ)
■75kg級での世界選手権出場経験者が、次々といなくなった!
過去3度オリンピックに出場している浜口京子(ジャパンビバレッジ)が欠場。9月の世界選手権(米国・ラスベガス)の代表だった鈴木博恵(クリナップ)は、同選手権を棄権したけがが完治せず今大会も不出場となった。
鈴木に代わって世界選手権に出場した飯島千晶(警視庁)は準決勝でひざを痛めて途中棄権。病院へ向かうというアクシデントに見舞われた。そんな中でオリンピック予選出場のキップをつかんだのは、渡利だった。
決勝まで、「これで負けたら終わりになる。大事にいかなくちゃいけない、という気持ちが強かった」という渡利は、なかなか調子が上がらず、もたつきながら決勝にたどりついた。決勝の相手となった工藤佳代子(警視庁)は初戦をフォールで、準決勝をテクニカルフォールで勝って決勝へ進んできた。
ともにオリンピック出場を目指して下の階級から上げてきた選手。覚悟を決めて階級をアップしてきただけに、試合は大接戦となった。 終了間際、執念のタックルに行った渡利(青)
■通常の倍くらいの食事を毎日胃袋へ詰め込んだ
6月の全日本選抜選手権は63kg級に出場し、決勝で至学館大の後輩、川井梨沙子に敗れて世界選手権出場をのがした。「やる気がなくなった。リオがダメなら東京もダメだと思った」というほど落ち込んだ。
しかし、9月の世界選手権で日本が75kg級の出場枠を獲得できなかったとから、「チャンスがあるからこの階級にかけてみろ」と周囲に背中を押された。迷いがなかったわけではないが、気持ちを切り替え、2階級アップというビッグチャレンジに取り組んだ。
12kgの増量は尋常ではない。渡利は通常の倍くらいの食事を毎日胃袋に詰め込み「大好きなものも嫌いになるくらい」食べに食べ、スピードの落ちを最小限に抑えながら、75kg級の下限である69kgを超えてこの日の試合を迎えた。
苦労して手に入れたチャンスだけに、オリンピック出場枠を手にしたいという思いはだれよりも強い。日本が既に出場枠を獲得している5階級は、いずれも至学館大の学生か卒業生が占めていることも発奮材料だ。
一度はあきらめたリオを視界に入れた渡利は「せっかく名前と同じオリンピックに出られるチャンスが巡ってきたので、3月(アジア予選)は絶対に勝って、オリンピックを自分のものにしたいと思います」と言葉に力を込めた。