※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子) 高橋侑希(山梨学院大)
全国中学王者、高校ではインターハイ3連覇と、カデット世代から輝かしい成績を残してきた高橋も、今年は大学の最終学年。今回、学生の最後の大会に山梨学院大の主将として臨んだ。この2年間は、全日本の頂点を極め、世界選手権代表として活躍。すでに学生レベルを超えた世界を舞台に闘っている高橋だが、この全日本大学選手権は一つの鬼門でもあり、絶対に負けられない大会だった。
高橋は3年前、2つ年上で長年のライバル、森下史崇(日体大=現ぼてぢゅう&Bum’s)を破って1年生王者に輝いたが、2年時は森下にリベンジされ、昨年は専大の中村倫也に敗れて優勝を逃していた。高橋の成績にならうように、この大会の大学対抗得点も優勝を飾れずにいた。東日本学生リーグ戦は勝っていたにも関わらず。 決勝の開始直後はエンジンがかからなかった高橋だが…
最大のライバルだと思われていた中村や、9月の和歌山国体で森下をテクニカルフォールで下すなどしてシニア大会初優勝を飾った樋口黎(日体大)は、けがで欠場。初日に出場した高橋は、ライバル不在のトーナメントを圧倒的な強さで勝ち上がって優勝を決めた。同日には、65kg級のスーパールーキー、藤波勇飛も優勝し、2階級を制して大学対抗得点でトップに躍り出たが、高橋の気持ちは「まったく安心できなかった」そうだ。
「97kg級の吉川(裕介)が試合中のけがで5位に終わった。本当は初日に30点以上を取り、翌日の後輩たちに余裕を持たせようと思ったけど、吉川のアクシデントで気持ちが落ちてしまった。本当に試合は何が起こるか分からない」。
■大学で教えてもらった団体戦で勝つ喜び
山梨学院大の主将を務める高橋は、試合で優勝することだけが仕事ではない。初日の吉川のアクシデントに続いて、最終日、上位進出を計算していた全日本学生選手権2位の乙黒圭祐が2回戦で負け、敗者復活戦に回れずに得点が0点に終わった。後輩に余裕を持たせるどころか、2年の木下貴倫に重圧をかけることになってしまった。 最後はテクニカルフォールで勝ち、地力を見せた
個人では中学時代から勝ち慣れているが、団体で勝つ喜びは、大学で教えてもらった。高橋は「個人とは全く違う良さがある。みんなで勝ち取った栄冠。団体で優勝できたことで、山梨学院が日本一の大学ということを実証できた」と満足そうに振り返った。
いい流れを約1ヶ月後の全日本選手権にいかしたいところ。「この大会、吉川のけがで本当に何が起こるか分からないということを学んだ。天皇杯(全日本選手権)はけがなどで言い訳を作ることがないように、しっかりと万全な状態で試合をしたい」。
世界選手権を決めた6月の全日本選抜選手権では、優勝しプレーオフも勝ったが、高橋自身は腕にばい菌が入り、数日前まで点滴を打つなど綱渡りでの調整を強いられる苦い経験をした。今度こそ、完璧な状態でパーフェクトな試合でオリンピックに王手をかけられるか。