※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子) 国体を初制覇し、にっこりの文田健一郎(山梨・日体大)
高校時代、フリースタイル、グレコローマンの両スタイルで高校王者だった文田。大学に入ってグレコローマンを専門に取り組み、今年の全日本学生選手権(インカレ)を制覇。その勢いで、ついにシニアのタイトルも手に入れた。
これまでに惜しかったのは、昨年の長崎国体だ。初戦を勝ち、2回戦で世界選手権代表の経験がある田野倉翔太(クリナップ)に勝つ金星を挙げて準決勝に進出した。しかし、清水に敗れて3位止まりだった。文田は「去年負けた清水さんに勝つことだけを考えて臨んだ。集中できて、きっちりリベンジできてよかった」と振り返った。
現在の59kg級は4強時代と言える。世界選手権代表の田野倉、昨年の世界代表の倉本一真(自衛隊)、アジア選手権2位の太田忍(日体大)、仁川アジア大会優勝の長谷川恒平(青山学院大職)だ。文田は田野倉に1度勝ったことがあるが、昨年12月の全日本選手権、今年6月の全日本選抜選手権はいずれも田野倉にリベンジされ、この4強に地力で追いついてないのが現状だ。
■「ここで負ければリオデジャネイロはない」という覚悟で臨んだ
だが、文田の才能には目を見張るものがある。3月の「ハンガリー・グランプリ」では、初戦でロンドン銅メダリストであり、2013年世界選手権でも55kg級で3位に入賞したペテル・モドス(ハンガリー)にフォール勝ち。 第1シードの清水早伸(埼玉・自衛隊)にリベンジしての優勝だった
文田は、もう一段上のステージに上がるために、もがいていた。「今回は倉本さんと太田先輩が66kg級に出て不在の59kg級だった。優勝しかないと思ったし、『ここで負ければリオデジャネイロはない』という覚悟で臨んだ」と、敢えて自分を追い込んだ。「相手のことを知っていることで、先入観で空回ったりしたことが多かった」そうで、相手の実績などに左右されず、どんな相手でも自分のスタイルを貫くことを意識した。
5月のルールの微修正後、審判は積極的にパッシブを取らなくなり、スタンド中心の展開が多くなった。点差が開いた場合に、その傾向が顕著に見られた。文田の勝ちパターンは、パッシブを相手に課してグラウンドで一気に勝負をつけるスタイルだったが、「パッシブを待っていてはダメ。スタンドから自力でグラウンド持ちこむことを意識した」と、全試合を通してスタンドからの攻撃がさえたことも勝った要因だろう。
国体を制し、シニアの全国タイトルを引っ提げて12月の全日本選手権で4強に再度挑戦する。「今回優勝したことで、全日本で勝って、アジア予選でオリンピック出場枠を獲るという目標ができた。このチャンスを生かせるようにしたい」。文田が12月で真のブレークを果たせるか―。