※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=保高幸子) 川井梨紗子(至学館大)
川井の両親はともにレスリング選手。父の孝人さんは日体大出身で、1989年に学生二冠王となり、母の初枝さんは同年の世界選手権(スイス)の代表選手。その血筋を示すかのように、現在愛知・至学館高に在籍している妹・友香子も昨年の世界カデット選手権60kg級で3位に入賞している。
■2012年に17歳で世界選手権へ出場
今回、W杯代表となった川井は、2012年9月にカナダで行われた世界女子選手権の51kg級に17歳で初出場。3ヶ月後にあった全日本選手権は、通常体重が58kgあったこともあって55kg級へアップ。吉田沙保里(ALSOK)はオリンピック後で休養していたが、3位に入賞を果たした。
2014年から階級区分とオリンピック実施階級が変更になり、川井がオリンピックを目指すには、吉田のいる53kg級か伊調馨(ALSOK)のいる58kg級のどちらかとなった。力を伸ばしていた川井は、「体が(吉田)沙保里さんよりも大きくなっていて、通常体重は60kgあった。減量が少なくて目いっぱい力を出せる58kg級に決めた」と58kg級を選んだ理由を振り返る。 昨年12月の全日本選手権で伊調の片脚をとらえた川井だが…(撮影=矢吹建夫)
その理由は、「馨さんに勝ってこそ、意味がある。かっこいいじゃないですか」という美学。オリンピック3連覇の伊調に勝って世界に出るとなれば、世界レスリング関係者の注目の的となる。さらに、「馨さんに勝てば、世界でも勝てるということです」とにっこり。
■世界2位のバレリア・コブロワ(ロシア)との対戦を熱望
すでに来年のリオデジャネイロ・オリンピックの代表選考方法が決まり、今年の世界選手権(9月、米国)でメダルを獲得した選手は、その段階で実質的にオリンピック代表に内定する。伊調が世界選手権へ出れば、99パーセント以上の確率でメダルを取るだろう。川井にとっては、6月の全日本選抜選手権で勝って世界選手権の代表になることが、オリンピック出場を勝ち取る“最初で最後”のチャンスとも言える。
勝負の3ヶ月前に行われるW杯。川井には明確な目的がある。バレリア・コブロワ(ロシア)との対戦だ。2012年ワールドカップ(東京)で55kg級時代の吉田に土をつけた選手で、昨年の世界選手権(ウズベキスタン)決勝は58kg級で伊調と優勝を争っている。コブロワとの対戦で「自分の力を試せる」と川井。2歳年上で世界2位のコブロワは“まだ見ぬライバル”といったところか。 全日本合宿で練習する川井
「馨さんはうまい。普段の練習で取れている技が試合では通用しないことも。それでも、12月(全日本選手権)はふところに入り込むところまでできました。初めて闘った2013年の全日本選手権の時よりは差が縮まっていると思っています。あとは、技をつなげられれば」と話し、わずかだが勝機は見えてきている。
■W杯では、日本の58kg級に川井もいるところを見せる!
昨年のW杯直後の世界ランキングでは、伊調馨に続き2位にランクインされていた。今年は、2月時点では8位となっている。今大会で活躍すれば、再び順位を上げるだろう。「日本の58kg級には川井もいる、というのを見せたい」と意気込む。
オリンピック前年を迎え、川井の準備は万端。その仕上げとして世界の強豪が集まるW杯へ向かう。存在感を見せ、その先にあるオリンピックへのキップに手を伸ばす!