2014.12.25

【ルール解説】高橋侑希(山梨学院大)-樋口黎(日体大)の判定について

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

 全日本選手権最終日に行われた男子フリースタイル57kg級2回戦、高橋侑希(山梨学院大)-樋口黎(日体大)の試合の判定をめぐり、当事者、サポーター、マスコミ等、多くから疑問の声が上がりました。このシーンについて、日本協会審判委員会の見解を掲載します。

《状況》
 ■試合開始後、5分(第2ピリオド2分)の時点で、樋口が6-2とリードしました(警告は高橋1、樋口0)

 ■このあと、樋口が5分15秒と5分30秒に2度、場外逃避の警告を取られ、スコアは樋口の6-4(警告は高橋1、樋口2)

 ■残る30秒、両者の必死の攻防が続き、お互いにポイントが入らず、6-4のスコアで試合が終了

 ■高橋陣営は、「樋口の最後の動きが消極性にあたる」(セコンドの小幡邦彦コーチ談)としてチャレンジ。高橋も同意して、審判団によるビデオ・チェックへ。

 ルールに精通した審判員で構成されるジュリー(裁定委員)のビデオ・チェックの結果、樋口に消極性ではなく、相手のシングレットをつかんだ反則を認め、樋口に警告。これが3度目の警告となり、樋口の警告失格となりました。(注=公式記録のタイムは「6:00」になっていますが、これは混乱の中での誤りであり、正確には5分55秒とすべきとのことです)。

 《レスリング・ルール第50条 一般的禁止事項》
下記の各項目にわたるレスラーの行為は禁止されている。
(中略)相手のシングレットをつかむ行為 (後略)

 斎藤修審判委員長は「樋口に2度、シングレットをつかむ行為が認められた。1回目は偶然に手が入ったとも解釈できるが、2回目は明らかにシングレットをつかんでおり、反則行為」と説明。ルールにのっとった判定であることを強調した。

《問題のシーンの動画:29秒》=青が樋口。電光掲示板の「5分45秒頃」と「5分52~55秒」に注目してください。

《試合開始30秒~終了までの動画》

 ジュリーのビデオ・チェック協議のあと、2審判の行動にも疑念が生じ、判定に関して「上からの圧力があった」との声があがったことも事実です。この部分についても説明します。

《状況》
■協議を終えたあと、斎藤修審判委員長が日本協会の福田富昭会長のもとへ行き、一言、二言会話。

■得点板を上げるべく福田耕治審判員は、すぐに得点板を上げず、後方を振り返り、福田会長との会話を終えた斎藤審判長の同意を求めるかのようにしたあと、「赤(高橋)1、青(樋口)警告」の得点板を上げた。

 以上のシーンが、斎藤審判委員長が福田会長に判定の承認をもらい、それによって判定が下されたかのように受け取られました。(下記動画参照:33秒)

 斎藤審判委員長は「審判長席に戻った時、(席の後方にいた)福田会長から『どうなったんだ?』と声をかけられたので、シングレットをつかむ反則があったことを説明した。福田審判員からは、(警告の際に相手に与えられる)ポイントが1点か2点かの確認があったので、『1点』と答えた」と説明(福田審判員も同様の説明)。

 「判定に関して、会長にお伺いをたてることは絶対にないし、これまで会長が判定に口をはさんできたことは一度もない」と続けたが、「誤解をまねく行動があったことは反省したい」と話した。

 また、「高橋の所属の監督が高田裕司専務理事であるための判定」という声に対し、「審判団はいかなる圧力も受けていない。もし、何らかの圧力があっても、それに左右されることは絶対にない」ときっぱり言い切った。

 福田会長の指示により、次の試合のあと、場内アナウンスによって観客にも高橋勝利の経緯の説明がなされた。全試合終了後の日本協会理事会では、観客のためにも微妙な判定の際には場内アナウンスをしていく方向が確認された。