※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫) 優勝を決め、応援席にこたえる金久保武大(ALSOK)
昨年の世界選手権74kg級代表の金久保に決勝で挑んできたのは、世界選手権66kg級代表の清水博之(自衛隊)。全日本合宿でも「よくスパーリングをする仲」(金久保)で、手の内を知り尽くしている相手だ。
「接戦になると思っていた」との予想通り、2012年のこの大会の74kg級優勝者でもある清水は闘志をむき出しにして襲いかかってきた。それでも金久保は「1点を大事にしていこうと思った」と、リードした局面から清水の猛攻を冷静にしのぎ、3-2の小差で優勝。安堵の表情を浮かべた。
金久保は「誰にも負けられないという気持ちがいい方向に作用している部分と、逆にいつもの動きができなかった部分がある」と胸中を明かした。
金久保はこれまで世界選手権には3度出場しているが、アジア大会代表に決まれば、初めての出場となる。前回のアジア大会(2010年、中国)は、あと一歩のところで出場を逃した。選考会となるこの大会で優勝を飾りながら、プレーオフで鶴巻宰(自衛隊)に敗れ、つかみかけたキップを手放してしまったのである。 決勝で清水博之と闘う金久保武大
借りを返したいのはアジア大会だけではない。昨年の世界選手権では、初戦でロンドン・オリンピック銅メダリストのリトアニア選手を下す幸先いいスタートを切りながら、次の試合では、スコアボードの誤表示でポイント計算が狂ったこともあり、不完全燃焼のままメダルには手が届かず敗れ去った。
「もし出してもらえるのなら、両大会ともメダルを目指して頑張りたい」。国内での優勝はもう十分。あとは世界での結果、そしてオリンピックへのパスポートだということは本人が一番分かっている。