2013.12.19

【特集】全日本選手権へかける(5)完…男子フリースタイル84kg級・白井正良(福井クラブ)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文=保高幸子)

白井正良(福井クラブ)

今年の全日本選手権の注目カードは、トップの闘いだけではない。大会史上初の親子対決の可能性がある。男子フリースタイル84kg級に出場する白井正良(45歳=福井クラブ)と白井勝太(18歳=JOCエリートアカデミー/東京・帝京高)。親子が同時に全日本選手権に出場すること自体が大会史上初だが、よりによって同じ階級にエントリー。親子対決が実現すれば「空前絶後」となる可能性は十分だ。

■試合には負けても、自分に負けなかった45年間

 白井・父は、レスリングマットを輸入販売に携わるなど多方向で活躍するビジネスマン。高校、大学とレスリングで鍛え、社会人になってから福井県で事業を立ち上げた。27歳の時からレスリングを再開し、福井代表で国体に7度出場している。ほかに、サンボ、グラップリング、パンクラチオンなどにも出場している格闘家だ。

 福井市にキッズの道場がなかったこともあり、レスリング普及を兼ねて勝太が3歳になる1999年頃、「福井クラブ」をスタートさせてキッズ選手の指導をしてきた。

 全日本選手権は、33歳の時の2001年以来12年ぶり2度目の出場。4選手による総当たりの予選リーグ(当時のルール)では、当時のチャンピオンでありオリンピックに2度連続で出場した川合達夫と同じブロックとなり、3試合ともテクニカルフォール負けだった。

初出場を果たす勝太と対戦する可能性があることについては、「(JOCアカデミーに6年間預けていたため)生活は一緒に歩めなかったけれど、レスリングを通して一緒に歩んできた。そのご褒美だと思っています」とうれしそう。しかし「ふだんはあまり話さないです。勝太のことはアカデミーのみなさんに預けています。私のことは怖い存在なのではないでしょうか、勝太から話してくることも少ないです」と言う。言葉ではなく、肌を合わせて父親の存在を示したいところだ。

 全日本選手権への権利を先に獲得したのは父の方。7月の全日本社会人選手権で獲得し、勝太に「お父さんは権利を取ったぞ」と、言葉少なながらも話した。それに奮起したのか、勝太は10月の東京国体で、いつもより1階級上の84kg級で権利を獲得した。「応えてくれたんだと思います。勝太には強くたくましくはばたいてほしい。私は、試合には負けても自分に負けなかったから、人生も前を向いて続けてこられた。そういう生き方を見せたい」と意気込む。

■親子対決が実現しなくとも、2人にとっては“特別な大会”へ

 「社会人選手権も、一般での出場は10年ぶりでした。権利が取れたのは奇跡です」と話し、これも「何かの縁」だと思っている。45歳で全日本選手権に出場というのは、偉業以外の何ものでもないが、正良さんにとってはすべて周りの人々のおかげという。

 「同じ階級で同時に出場できるというのは、なによりレスリング関係者みなさんのおかげです。勝太がアカデミーにいたから出場権が取れたと思っています。私の体が何とかもったのも、レスリング協会でパンクラチオンやグラップリングの大会に出させていただいてキャリアを積めたから。支えてくれた家族にも感謝しています」と感謝の言葉が続く。

 息子だからといって、レスリングの試合で親子の情はない。「全力で勝ちにいきます。勝太にも全力で向かってきてほしい。そしてなにより…」と前置きして言う。「勝太にはみんなの夢を背負って華々しい全日本デビューをしてほしい」-。

 アカデミー第1期生として6年間歩んできて、お世話になった人々へ恩返しという気持ちで臨む全日本選手権。親子対決がなかったとしても、2人には特別な大会となるだろう。これからは一般ではなくマスターズに出場するという父。これが本当に最後、集大成という気持ちだ。

 45歳のレスラーから高校生の息子、未来のトップレスラーへ。親子のバトンタッチとなる全日本選手権のもう一つの側面にも注目したい。