2026.08.22NEW

【特集】障がい者のレスリング普及を目指し、地道な種まきがスタート…谷津嘉章氏

(文・撮影=布施鋼治)

 「あとになって、『そういえば第1回のときは参加者が少なかったね』といういい思い出になっていればいい」

 2026年8月15日、「EBARA WAVE アリーナおおた」(東京・大田区総合体育館)サブアリーナで、特定非営利活動法人日本障がい者レスリング連盟主催による「障がい者レスリング教室&プロレス観戦イベント」が開かれた。

 同連盟がイベントを開催するのは初めて。冒頭の総括は第1部として行われたレスリング教室終了後、イベントのプロデューサーを務める谷津嘉章氏(日大OB=1976年モントリオール・オリンピック代表)が語ったものだ。

▲日本障がい者レスリング連盟がイベントを初開催。左端が谷津嘉章氏

 その言葉通り、今回参加者は3人という苦難のスタートだったが、レスリング界のみならずプロレス界でも荒波にもまれてきた谷津氏はタフ。「サクラを置かないで、障がい者レスリングの現在を見てもらうのが一番。世間にはだんだんと理解してもらえればいい」と気丈に語った。

 レスリング教室は、第3部でプロレス大会を行ったイーグルプロレス(栃木県を中心に活動しているプロレス団体)所属の面々が徹底的にサポート。前受け身やグラウンドでの腕とり固めなど、マイクを握った谷津が仕切る中、しっかりと参加者たちの動きをサポートしていた。

▲イーグルプロレスの選手が協力したレスリング教室

レスリングはハンディキャップを持っていてもできる

 谷津氏は2019年、糖尿病の悪化で右ひざから下を切断し、障がい者となった。障がい者にレスリングを教える難しさを語る。

 「今回は下半身マヒの人や知的障がい者の方が参加してくれたけど、(障がいの種類が違うので)同じプログラムで教えるのは無理。それぞれの障がいの部門を設ける形で、それぞれ教えるような形にしないといけない

 その一方で、レスリングは何らかのハンディキャップを持っている人に適した格闘技だと感じている。「下半身が動かなくても、グラウンドはできますからね」

▲障がい者を指導する谷津嘉章氏

 レスリング教室以外では、谷津氏がMC(司会)を務める形で三恵海運所属の吉田アラシ、吉田ケイワン、髙橋夢大とのトークショーを実施した。

 谷津氏の「レスリングとは何ですか?」という問いかけに、吉田アラシは「同じスタイルの人は誰ひとりいないこと。それがレスリングの面白さだと僕は思っている。誰かの真似をしても個性は絶対残りますからね」と答えた。

 今回、初めて障がい者レスリングの練習を見たという吉田は「足を使えないなど、多様な方が集まっていたけど、どんな人でもレスリングはできることが分かりました」と刺激を受けていた。「レスリングをやると『けがをする(可能性が大きい)』と考える人もいるけど、反対にレスリングをやることで、けがをしない身体を作れるんじゃないですかね」

▲三恵海運の選手と谷津嘉章氏のトークショー

10月18日にも第2弾イベントを開催へ

 谷津氏もレスリングやプロレスで鍛えた体幹がいまも役立っていると痛感している。

 「鍛えていなかったら、前受け身をとっただけで腕はボキッといっちゃっていますよ。ハンディキャップのある人は、どうしてもバランスが悪くなるから転ぶことがある。路面で転んで頭を打ったら大事故につながる。障がい者でもレスリングをやることで強くなれなくても、体幹力を高め社会復帰できる自信になったらいい」

 イベントに出席した日本レスリング協会の福田富昭・名誉会長は日大レスリング部で谷津氏の先輩にあたり、現役時代から支援してきた。今回、障がい者レスリングに全面的なサポートを約束した。

▲谷津嘉章氏と福田富章・日本協会名誉会長の師弟コンビ

 「このイベントをきっかけに、障がい者レスリングがパラリンピックの種目になってもらいたい。現時点ではファンも応援も少ないけど、なんとか支えになりたい」

 テコ入れするとしたら? 「イベントをやる前に、もっとPRが必要だよね。そもそも、ハンディキャップのある方が格闘技をやるのはすごいこと。そういうところで格闘技と身体障がい者の人たちをつなげていきたい」

 イベントには3人の大田区区議会議員も出席していた。日本障がい者レスリング連盟は10月18日、都内で第2弾のイベントを開催する。地道な種まきは続く。

▲福田富章・名誉会長と大田区区議会議員