(文=布施鋼治)
「パリ・オリンピックではいい結果を残せたけど、これから妹との立場を逆転されないように、兄として威厳を保てるようにしたい」
2026年明治杯全日本選抜選手権最終日(5月24日)。男子フリースタイル65kg級決勝は、清岡幸大郎(カクシングループ)が田南部魁星(ミキハウス)を3-0で撃破し、連覇を達成した。前日には女子53kg級決勝で妹の清岡もえ(ALSOK)が村山春菜(自衛隊)に11-1のテクニカルスペリオリティーで破って優勝し、兄妹そろっての優勝を果たした。
ともに世界一に輝いているが、2人そろって世界選手権やアジア大会に出場したことはないので、実現すれば兄妹での活躍が期待される。
冒頭の言葉は、試合後に幸大郎が発したものだが、兄として偽らざる心境なのだろう。「これまでは、もえに“清岡幸大郎の妹”というレッテルがついていた。彼女にとってはそれがプレッシャーになる一方で、発奮材料になっていたと思う。僕も全く一緒。だからこそ、自分にハッパをかけて頑張っている部分はあると思う」
田南部との決勝は、幸大郎らしいダイナミックでクリエイティブなレスリングを魅せてくれた。第1ピリオド開始早々、飛び上がって組みつくや、そのまま田南部の頭上を旋回するようにしてバックに回り、十八番のリンクルを決めた。
「狙っていたのか?」と問われると、清岡はきっぱりと否定した。「やはり一瞬の駆け引きが勝負になってくると思う。あそこで(自然と)行けたのは、ふだんからいろいろなパターンを練習している成果が出たのかなと思います」
田南部は最近、二刀流(両スタイル)で活動し、今大会もフリースタイルだけではなく、グレコローマン63kg級にもエントリー。本戦は棄権したが、プレーオフで同じ所属の文田健一郎と争った。本業のフリースタイルの練習では「とてつもなく強い」と評判なだけに、今大会で清岡との直接対決が実現すれば、シーソーゲームが予想されたが、清岡は無失点で試合終了のホイッスルを鳴らした。
「田南部はもつれるところ、つまりスクランブルがうまい選手だけど、最後の最後以外はもつれる展開にならなかったことがよかったと思います」
特筆すべきは、先に記した試合開始早々の動き以外でも、両者は緊迫感あふれる攻防を繰り広げたことだろう。その理由が奮っている。「決勝の組み合わせが決まった時点で、魁星と『面白い試合をしましょう』と約束していた。直前には田南部のコーチで(父の)田南部力さんからも『日体大らしいレスリングを』と気合を入れられていた。最近、日体ではいろいろあったけど、魁星と日体らしいレスリングを魅せられたと思います」(清岡)
一方、もえの方も社会人となって初めて挑んだ大会で成長した姿を見せつけた。今回の決勝は昨年の明治杯と同じ組み合わせ。そのときは村山に1-3で敗れ、世界選手権代表決定プレーオフでも敗れてて悔しい思いをした。だからこそ村山に対するリベンジに燃えていた。
第1ピリオドが終了した時点で1点ビハインドだったが、もえに焦る気持ちはなかった。「村山さんとの試合ではいつもそういう(もつれた)闘いになるので、今回もそうなると予想していました。『最後まで弱気にならない』と意識していたので、それがよかったのかなと思います」
その言葉通り、第2ピリオドになると、もえは片足タックルでバックを奪い、兄譲りのリンクルを4回転。アクティビティタイムの1点と合わせ11-1と逆転勝ちをおさめた。
兄は「試合になると、緊張していつもの実力を出し切れない」と言われることも多かったが、その段階を脱したか。「去年の明治杯で同じ選手(村山)に負けたり、国際大会で同じ負け方をして(一時はリードするも逆転負け)、悔しい思いをしていたことは僕も知っている。ここで、ひとつの殻を破れたのかなと思いますね」と話す。
奇しくも、今大会のグレコローマンで世界選手権やアジア大会の代表の座を獲得した日下尚(マルハン北日本カンパニー)、曽我部京太郎(ALSOK)と曽我部凛太郎(aiwa benefit)の兄弟も四国出身。
パリ・オリンピックのメンバーから櫻井つぐみが抜けたが、新たな“チーム四国”で躍進するか。