薬物汚染との闘いが新たな課題となっている学生スポーツ界。青山学院大レスリング部が3月16日、自主的に民間会社の薬物検査を受け、大麻とエトミデート(いわゆる「ゾンビたばこ」関連成分=最下段参照)について「全員陰性」との判定を受けた。長谷川恒平監督は「部員を信用しているが、客観的な結果が出てこそ、『青山学院はクリーンである』と自信を持って言える。預かっている保護者にも胸を張って伝えられ、安心してもらえる」と強調した。
競技および大学スポーツに携わるものにとって「大事なこと」とも話す。「陰性」であることを客観的に証明できる手段があるのなら、「それを活用し、クリーンさを証明するとともに選手の意識を高めることが必要」と訴える。
検査を手がけたのは、このほど日本プロサーフィン連盟とオフィシャルサプライヤー契約を結んだホンダエンタープライズ株式会社(https://www.hondaent.com/)。昨年秋には拓大レスリング部の21選手が同社の尿検査を受けている。本田通靖社長(中大水泳部出身)は「摘発が目的ではない。薬物に手を出さない意識を高め、クリーンな世界を目指すため積極的に実施してほしい」と目的を説明する。
陽性が出ても、警察への通報義務はない。検査カップにはあらかじめ監督が割り振った番号が記載されるだけで、氏名は不記載。よって、検査側はだれの結果かは分からない。費用は1人あたり1,200円。青学大はOBが負担した。
検査は、覚醒剤やコカインも調べられるが、ものものしくなり、選手の心理的なハードルもできるので、今回は「大麻」「エトミデート」などに絞った。検査カップに尿を採取すれば、1分後には結果が分かる。
大会におけるドーピング検査と違い、監督といえども強制はできないので、長谷川監督は、まず選手の意思を確認した。すると全選手から「やりたい」との回答があり、実施することにした。「『やってません』と言っても、それを客観的に証明するものがなければ、周囲は半信半疑。だれもが、陰性であることをしっかりと証明したかったのだと思います」と推測する。
菊田創主将は、今月7日の東日本学生連盟の研修会でも薬物に対する講義を受けており、薬物への意識は高まっていた。「アスリートとしての高潔さを自分たちで守るため、実施しました。自分たちでもできることは積極的にやりたい」と検査を受けた理由を説明。「選手から潔白さを訴えるすばらしい手段だと思います」と話す。
検査の結果、全部員が陰性だったことについて「安心できました」と胸をなでおろした。定期的にやらなければ意味がないとも話し、継続的な検査の必要性を訴える。
同選手はU20やU23の日本代表として国際大会にも参加しており、ドーピングに対する意識は他の選手より高い。だが、「日本代表だから、ではなく、レスリングに携わっているなら、だれもが意識しなければならない。一人がやれば、レスリング界全体がそう見られる」と話し、ひとり一人の努力でクリーンなレスリング界をつくっていくことを訴えた。
本田社長が日本プロサーフィン連盟と契約を結んだのは、サーフィン界のクリーンなイメージを目指す姿勢に始まる。2009年、歌手の酒井法子さんが夫とともに「覚せい剤取締法違反」で逮捕された事件があった。夫が「プロサーファー」と自称(実際には公認登録しておらず、無関係だったもよう)。離婚後の2020年にも同罪で再逮捕され、そのときもサーファーであることを主張。連盟が「サーフィンのイメージが悪くなる」として、健全性や透明性を制度として明確にする姿勢を示した。
連盟は今後、ホンダエンタープライズの薬物検査キットによって検査と記録管理の体制を整備。公式制度として位置付け、信頼を制度として支える仕組みを構築するという。
日本プロサーフィン連盟、昨秋の拓大、今回の青山学院大に共通して感じられるのは「私たちはクリーンな世界でやっています」というアピール。正式な規則もなく「尿を採れ」というのは、現在ではパワハラ(女子選手に対してはセクハラ)になる可能性があるが、薬物に対して潔白なら、率先して「やりましょう」「歓迎します」と言えるはず。
検査は拓大と中大のボクシング部でも実施しており、拓大レスリング部を含めて春のリーグ戦前に「再度実施してほしい」との連絡を受けていると言う。本田社長は選手の薬物に対する意識の高さを賞賛する。
「大麻」や「ゾンビたばこ」とは絶対に無関係であるにもかかわらず陽性が出た場合は、受動喫煙の可能性があるわけで、自身の行動を律するきっかけともなる。20歳未満の選手なら、法律違反となる喫煙の有無を調べることもできる(前述の通り受動喫煙の可能性もあるので、判断には注意が必要)。薬物や違法行為に対する意識の向上につながる。
近年、大学運動部において薬物使用に関連する不祥事が相次いで発生している。部をあげての犯罪で(見て見ぬふりを含む)、全体責任で廃部となったケースもある。そうでなくとも、はっきりした結果が分かるまで、大学によって部の活動が停止される。いずれの場合も、まったく無関係でスポーツに打ち込んでいる選手の人生を台なしにする。
薬物は、必ず周囲に迷惑をかける。違法でなくとも、その摂取には細心の注意を払わねばならないが、「誘われて」「興味本位で」として手をつけてしまう場合もあるだろう。それを組織として抑止し、意識を高めさせることが指導者の役目。
拓大や青学大に続くチームが出て、レスリング界がクリーンな世界であること、それを明確に示すことが望まれる。
※検査の依頼・お問い合わせ → contact.honda.ent@gmail.com
※ゾンビたばこ=日本では未承認の医薬品成分(鎮静剤・麻酔薬)を含む危険ドラッグの俗称。電子たばこのリキッドとして吸引されることが多く、使用すると深刻な健康被害を引き起こす非常に危険な違法薬物。若者を中心に摘発が相次いでおり、プロ野球選手の逮捕者も出て社会問題となっている。