2026年がスタートした。昨年の全日本選手権で、52年ぶりの両スタイル優勝を達成した成國大志(筒井メディカルグループ)にとって、国際舞台での両スタイル制覇の夢への闘いがスタートする。
まず4月のアジア選手権(キルギス)で、同選手権では例のない両スタイル制覇が目標となる。「まだグレコローマンの(国際大会の)タイトルを取っていないので、グレコローマンの練習が中心になるかな、と思います」と、冬の間は、どちらかというとグレコローマンの練習に重きを置く予定。「グレコローマンの実力が底上げできれば、間違いなくフリースタイルでも役立ちます」と言う。
これまで、世界カデット(現U17)選手権と世界ジュニア(現U20)選手権でグレコローマンの国際試合の経験はあるが、シニアでは昨年の世界選手権が初めて。(フィンランド)に1-2で惜敗したものの、「得ることはたくさんあった。他の階級の試合を生で見て感じることもありました」と、すべてが成長の糧。その経験を、どう生かせるか。
よく言われている「グレコローマンが強くなれば、フリースタイルも強くなる」という言葉は、「間違いないと思います」ときっぱり。フリースタイルで出場した国民スポーツ大会74kg級では、70kg級世界王者の青柳善の輔(クリナップ)や、全日本選抜選手権74kg級2位の佐藤匡記(自衛隊)を破って優勝したことが、その証明。青柳は全日本選手権74kg級で優勝したので、単純に考えれば、成國は74kg級でも全日本王者を上回る実力を持つことになり、その原動力はグレコローマンの実力アップだと言える。
期待できる成國の両スタイルへの挑戦だ。成國は「両スタイルへの挑戦ができるのは、限られたチャンス。せっかくの機会なので、達成したいですね」と、両スタイル制覇への意気込みを話す。
「同じレスリング」「グレコローマンが強くなれば、フリースタイルでも役立つ」として、高校や大学では両スタイルの練習をやり、両方の試合に出ることは普通にある。全日本レベルになると、両スタイルに挑む選手は少なかった。「餅は餅屋」「二兎を追う者は一兎をも得ず」という言葉があるように、両スタイルに取り組むと、ともに未完成になってしまう可能性がある。ひとつに絞って練習するべきという理論も、決して間違っていまい。
他に、全日本選手権はフリースタイルとグレコローマンとが混在した試合日程であり、両スタイル出場は時間的に不可能という事情もあって、双方に出場する選手はしばらくの間、いなかった。
その壁を破ったのが成国。2022年にフリースタイル70kg級で世界チャンピオンに輝くと、次の目標をグレコローマンの世界王者に定めた。全日本社会人選手権のグレコローマンで優勝していて全日本選手権の出場資格があったので、両スタイルにエントリー。同じ選手が両スタイルにエントリーしたのは、1984年の朝倉利夫以来、38年ぶりのことだった。
このときは残念ながら負傷で両スタイルとも欠場。翌年からグレコローマンに専念し、2023年全日本選手権は初戦敗退、2024年全日本選手権は5位と実力アップ。2025年は、久しぶりにフリースタイルの国民スポーツ大会74kg級に出場して優勝。「グレコローマンが強くなれば、フリースタイルも強くなる」を実践した。全日本選手権の出場資格を得たことで、3年ぶりに両スタイルにエントリーし、両スタイル制覇を成し遂げた。
2022年の成國の両スタイルエントリー以来(注:この年は向田旭登も両スタイルにエントリー=負傷で棄権)、選手の間に「両スタイルに出てもいいんだ?」「両スタイルで挑んでみたい」というムードができ、翌年の全日本選手権では18選手が両スタイルにエントリーし、ブームと言える流れとなった。今回の成國の快挙で、その流れが高まりそう。
世界では、フリースタイルとグレコローマンの組織が分かれている国があったり、普及の度合いが大きく違ったりして、両スタイルで世界の舞台に出る選手は少ないのが現状。まして世界一に輝くことは至難の業。1932年ロサンゼルス・オリンピックでイバー・ヨハンソン(スウェーデン)、1936年ベルリン・オリンピックでクリスチャン・パルサル(エストニア)が両スタイル同時優勝をした例はあるが、フリースタイルの世界的普及が今ひとつだった時代のこと。
フリースタイルの世界選手権がスタートした1951年以来、その偉業を達成した選手はおらず、1960年ローマ・オリンピックの87kg以上級でウイルフリード・デードリッヒ(西ドイツ)が両スタイルに挑み、フリースタイルで優勝、グレコローマンで2位。両スタイルのメダル獲得はいても、両スタイル制覇はいない。
世界選手権の両スタイル制覇も皆無で、両スタイルの同時メダル獲得は、1973年の74kg級でジャン・カールソン(スウェーデン)がフリースタイルで銅、グレコローマンで銀を獲得、2015年の最重量級でバイリャル・マホフ(ロシア)が、ともに銅メダルを取った2例だけ。
成國が両スタイルの同時世界王者を目指すには、もう少し時間が必要かもしれないが、世界でも例の少ない挑戦であることは間違いない。
大谷翔平が投打の“二刀流”に挑んだとき、懐疑的な声は多かった。成功した今でも、ドジャースのあるコーチは「素晴らしいことだが、自分の息子には勧めない。『メジャーを目指すなら、どちらかひとつに絞るべきだ』と伝えている」とコメント。特別な才能を持つがゆえの挑戦としている。
一方で、「先入観は、可能を不可能にする」(プロボクシング元世界ヘビー級王者・モハマド・アリ)という言葉もある。常識にとらわれて挑むことがなかったなら、今の大谷はない。まず挑むことだ。
レスリング界の常識打破に挑む成國。2026年は、日本が世界のレスリング界を大きく変える元年になる-。