2025.04.26NEW

【焦点】男子の一本化か、女子グレコローマンの採用か?…男女平等の理念のもと、3スタイルの共存は不透明

(編集長=樋口郁夫)

 来年10~11月にセネガル・ダカールで実施される第4回ユース・オリンピックの全容が明らかとなり、レスリングはビーチの男女のみが行われることに変更された(関連記事)。ビーチのみが行われること自体は、ユース・オリンピックの「地域状況に適応し、地域のスポーツ振興に貢献する」という理念のひとつからして、おかしなことではない。

▲2026年ユース・オリンピックの開会式が予定されているダカール・アリーナ=大会サイトより

 2019年12月のIOC理事会の決定でセネガル大会で男子グレコローマンが外れると分かったとき、筆者は世界レスリング連盟(UWW)ネナド・ラロビッチ会長にメールで「オリンピックへの影響」を問い合わせたところ、「男子グレコローマンに変わってビーチを実施種目とするのは、セネガル開催という地域的な理由が大きな要因。セネガルはグレコローマンよりフリースタイルの方が盛んで、他に砂の上でやるアフリカン・レスリングも伝統スタイルとして実施されている。こうした背景により、グレコローマンではなく、ビーチが採用されたのであって、2024年以降のオリンピックに影響はない」旨の返信もらった(関連記事)。

 2026年ユース大会の方針に「(世界と)セネガルやアフリカとのつながりを最大化すること」とあり、アフリカの54ヶ国からは全競技合わせて最低でも男女各2選手が参加できる制度が採用されるという。アフリカ各国からレスリングへの参加を促すなら、マットの上でのレスリングではなく、ビーチ採用の決定はうなずける。

 ユース・オリンピックでは初となる「男女同数」開催も、すでに昨年のパリ・オリンピックで実施されたことであり、当然の流れだ。

全競技で「男女同種目」の2026年ユース・オリンピック

 レスリング関係者が懸念しなければならないのは、実施されるすべての競技が「男女同種目」で実施されることであり、IOCがそれをアピールしていること。これまでは、「男女同選手数」が問題にされており、種目の違いは問題ではなかった。2024年パリ大会、さらに2028年ロサンゼルス大会では、新体操とアーティスティックスイミングが女子のみ実施で、それと引き換えのような形でレスリング男子の選手数が女子の倍だった。

 この“引き換え”が次も続く保証はない。IOCの中では以前から男子のみの実施であるグレコローマンに対する懐疑的な見方が根強くあった。ラロビッチ会長は2015年9月、オリンピック専門サイト「inside the games」のインタビューで、女子グレコローマンの実施へ向けて動いており、米国でセミナーを開催していることを明らかにしている。オリンピック実施は「早ければ2024年大会」としながら、「時間はかかる」ともコメントしている(関連記事)。

 一方、記事が掲載された直後にあった世界選手権(米国・ラスベガス)中の会見では、「男子グレコローマンに対して女子ビーチを採用し、男女同数に持っていくことも一案」と話していた。筆者もそれを望み、1年でも早く女子ビーチを普及させ、レスリングだけでの男女同数を実現してほしいと思っていた。しかし、「男女同種目」がIOCの至上命令となれば、この方法は通用しない。

▲IOCからの要望にどう対応するか、UWWネナド・ラロビッチ会長

 「男女のフリースタイル」、または「男女の両スタイル」が必要。ただでさえ選手数が少ない女子で、今からグレコローマンを採用してオリンピック・レベルに持っていくには、かなりの時間がかかる。オリンピックの肥大化抑制の流れもあり、「男子グレコローマンを削除すればいい」という意見が出てくることは容易に予想される。

男女で「違う種目」の競技はオリンピックに存続できるか?

 レスリング関係者は「グレコローマンは古代オリンピックから続く伝統あるスタイル。削除なんて、とんでもない」と思うが、それなら「女子も実施しろ」という意見が出るのは当然。現に、2013年のレスリングのオリンピック競技からの除外騒動のとき、IOC総会で「女子にグレコローマンがないのはなぜか」という質問が出た。

 これは参加メンバーの一人だった2008年北京オリンピック女子48kg級金メダリストのキャロル・ヒュン(カナダ)「女子は歴史が浅く、フリースタイルから始まり、フリースタイルへの取り組みが精いっぱいでした。今後、グレコローマンに関心が出てくれば、取り組むことになるでしょう」とかわしたが(関連記事)、IOCが「男女同種目」の実施を求めてくる可能性は十分にある。

▲ミハイン・ロペス(キューバ)の5連覇で注目された男子グレコローマン。オリンピック種目であり続けられるか

 もちろん、今回のユース大会の「男女同種目」が通常のオリンピックでも適用されるとは限らず、発表もされていない。現段階では推測の域を出ないが、可能性は「0」とは言えない。かつて、陸上、水泳、自転車で、男女によって距離が異なった種目があったが、ロサンゼルス大会ではすべて同距離で実施。

 さすがに柔道などの格闘技で男女同階級ということはないが(柔道の男子の最重量級は+100kg、女子は+78kg)、レスリングのように男女で「違う種目」の実施となると、前述の水泳と体操(新体操以外にも、平行棒は男子のみ、など)のほか、陸上で「男子が十種競技・女子が七種競技」を行うだけ。アーティスティックスイミングは男子にも門戸を開けており、将来は男女混合種目になる可能性はある。

 「男女同種目実施」は世界スポーツ界の流れであることは間違いない。2013年のオリンピックからの除外危機ほど差し迫った状況ではないが、男子しかやっていないグレコローマンは、間違いなくオリンピック種目からの消滅の危機に向かっている

 古代オリンピックから続く男子グレコローマンは、これからも続いてほしい。オリンピックにおける男女平等とは、男女が同種目をやることなのか? 男女の体の特性を考えて別の種目の実施でもいいのではないか? 世界のレスリング界は、2013年のときのように一致団結してグレコローマンを守るべきだ。