2025.04.25NEW

【特集】“猪木イズム”で飛躍を目指す…一部リーグ定着を目指す帝塚山大の鈴木貫太郎・新監督(三恵海運)

 日体大コーチだった湯元健一氏が大体大の監督に就任。西日本学生リーグ戦の一部リーグは、周南公立大(守田泰弘)、福岡大(池松和彦)、九州共立大(藤山慎平)、中京学院大(若山真毅)で日体大OBが指揮することになった(二部に降格したが復帰を目指す日本文理大の比江島研吾監督も日体大OB)。

 それに合わせたわけではないだろうが、昨年秋季大会の二部リーグで優勝し、4度目の一部昇格を果たした帝塚山大も、4月20日付けで日体大OBの鈴木貫太郎コーチ(三恵海運)が監督へ昇格。同じ三恵海運の現役選手(吉田アミン=日大卒)のほか、自衛隊、専大、国士舘大出身の元全日本トップ選手をコーチ陣に迎え、一部リーグ定着を目指した闘いを始めている。まず来月10~11日の春季リーグ戦(大阪・堺市金岡公園体育館)で一部残留を目指す。

▲4度目の1部リーグ昇格を果たした帝塚山大。鈴木貫太郎コーチが監督に就任し、定着を目指す

 同監督は「コーチに就任(2020年)してから、『明るく元気に』をモットーにやってきました。強くなってほしいけど、それ以上に元気さを目指してきました」と振り返る。やたら厳しくしても、選手はついてこない。そのやり方を4年続け、最初のころに比べると選手の意識が変わっていることがはっきり感じ取れると言う。

 監督として初のリーグ戦は、王者・周南公立大が初戦の相手。実力差があるのは当然だが、「勝利を目指して挑みます」ときっぱり。一部残留のためには、周南公立大には若手を挑ませ、ベストメンバーを温存して“最下位争い”をするチームとの試合に起用する方が得策だろうが、王者に全力で挑む姿勢を持つことでチームを奮い立たせる。

▲部員が多くなり、「狭い」と感じるようになったレスリング場で選手を指導する鈴木監督(向こう側中央)

“日本史上最強の世界王者”との初練習でフォールを決めた!

 鈴木監督の名前は、元総理大臣・鈴木貫太郎(1945年にポツダム宣言を受諾して終戦へ導いた)にあやかって名付けられた。京都・京都西高を経て日体大へ。入学直後、現役世界王者の高田裕司選手(のちの日本協会専務理事)にスパーリングの相手に指名され、出合い頭に首投げを決めてフォールに持ち込んだ経験があるという(世界王者の“怒り”を買い、その後は地獄のスパーリングとなったそうだが…)。

 上級生になるとグレコローマンに専念。4年生の1981年全日本選手権では52kg級で決勝へ進み、のちにオリンピック王者となる宮原厚次(当時自衛隊)に善戦して2位。卒業後は南京都高校(現京都廣学館高校)で指導に携わり、定年後、三恵海運に入社。髙田肇社長(現相談役)と選手の間に入ってオリンピック金メダリスト(日下尚、清岡幸大郎)育成に尽力。同時に帝塚山大のコーチとして、同チームの強化に携わってきた。

▲練習前後のあいさつは、よくある横数列ではなく、円陣を組む。「横隊では選手全員の顔が見えない」「きれいな円をつくることもチームワーク」という理由

 時代の流れもあり、日体大でやっていたときと大きく違う選手気質に戸惑いながらも、選手との対話を密にし、SNSを駆使して保護者との交流に尽力。2023年秋季と翌24年に二部リーグ優勝を達成した(関連記事1関連記事2)。

 同リーグは、一部リーグの最下位になると、入れ替え戦なしで自動降格というルール。そのため、いずれも1季のみで二部にUターンしてしまったが、チームとして4度目、指導に携わって3度目となる今度の一部での闘いに燃えている。

石山直樹監督が創部し、挫折を経験しながら育てたチーム

 帝塚山大は、2001年に石山直樹・前監督(同志社大OB)が創部。練習場はなく、マット10枚ほどを敷ける談話室を確保してのスタートだった。「東日本と西日本を融合したようなチームづくり」という理想を掲げたが、選手に「一致団結して頑張ろう」という気持ちが感じられないなど、何度も挫折を味わいながらやってきた。

 2011年秋季に二部リーグで初優勝を遂げたが(関連記事)、次の優勝は2019年秋季まで8年の間があった。そこに鈴木貫太郎コーチが加入。日体大で養った技術を伝え、顔の広さで選手を集め、常に優勝争いに加わるチームへ育ててくれた。鈴木体制を強固にしてもらうため、このほど監督の座をバトンタッチし、自らは部長として大局的にチームを見ていくことになった。

 鈴木監督とともに指導陣に加わったのが、同じ三恵海運の所属で昨年の全日本社会人選手権を制している吉田アミン。さらに、自衛隊で活躍し全日本社会人選手権を何度も制した月坂正吉さん(旧姓佐川)と、専大時代に全日本2位の実績を持つ沼田義次さん(沼田将吾主将の父)が週1~2回、仕事の合間をぬって練習に加わる。

 京都廣学館高校の佐藤将章監督(鈴木監督の高校時代の教え子=国士舘大時代に学生王者)が週末、高校選手を連れて参加し、大学選手の指導もしてくれるので、力強い体制となった。

▲一部定着を目指す指導陣。左から月坂正吉コーチ、石山直樹部長、鈴木貫太郎監督、佐藤将章コーチ、吉田アミン・コーチ、沼田義次コーチ

 躍進とともに選手数も多くなってきた。そうなると、1人の監督やコーチだけでは目が行き届かなくなるのが現実。石山部長は「コーチの数が増えたのは心強い」と言う。日体大、国士舘大、日大、専大、同志社大、自衛隊の出身という“多国籍軍”のコーチ陣は、スカウトでも利点があるだろう。

 女子マネジャーがチームを支えているのも大きいと見ている。昨年は西留萌々花さんがチームを支えただけではなく、西日本学生連盟の委員長も務め、大学の存在をアピールした(関連記事)。今年も6人の女子マネがチームを支える。「女子マネが笑顔でチームを支えるのも、大きな力だと思います」と、その効果を話す。

 「実質的にはこの冬から鈴木体制で頑張ってきました。その初陣を何とか飾ってほしい」と、まず一部残留へ向けて期待する。

▲鈴木監督と唯一の女子選手(矢野楓奈)、6人の女子マネージャーのうちの2人(右2人)

 吉田アミン・コーチは現在28歳で、選手と年齢が近く、体力も十分。選手活動を続けつつなので、積極的なスパーリングをする。同期で世界王者に輝いた現役バリバリの成國大志が、文大杉並高校(東京)の監督としてチームを全国一に導いたことが刺激になっている。「(選手と指導の)両立を目指したい。東の大学と闘えるチームに育てたい」と言う。

 会社の高田相談役にレスリング活動を支えてもらっているので、上司でもある鈴木監督を助け、「会社へ恩返ししたい」と語気を強めた。

▲学生選手とばりばりスパーリングする吉田アミン・コーチ

▲国士舘大の主将を務めた佐藤将章コーチ。今年の全日本マスタース選手権に出場した“現役選手”だ!

多くの注目を集めるチームづくりで実力アップへ

 鈴木監督の父・鈴木正文さん(1991年没)は、京都で日本正武館という総合武道場を運営していた著名な武道家。名を高めたのが、アントニオ猪木さんが闘った「格闘技世界一決定戦」のレフェリーを何試合が務めたこと。そのうちに後援者として経済面を支えた。ジャイアント馬場さんとも交流があり、「鈴木正文」と言えば、昭和のプロレス・ファンでは多くの人に知られた存在。

 鈴木監督は、上京した父に会いにホテルへ行ったとき部屋に猪木さんがいたり、京都で父と猪木さんを車に乗せて送迎するなど、地の猪木さんに何度も接している。

▲総合格闘技の誕生につながった一戦でもあるアントニオ猪木とザ・モンスターマンの格闘技世界一決定戦。裁いたレフェリーが、鈴木監督の父・鈴木正文氏=1977年8月、日本武道館(撮影・山内猛)

▲【左写真】京都市にあった日本正武館。空手、柔道、剣道、合気道、レスリング、フェンシングが行われていた。【右写真】犬猿の仲とも言われたアントニオ猪木とジャイアント馬場だが、鈴木監督の父は双方と交流があり、和解を目指した=鈴木監督提供

 驚いたのは、父が「コーヒー、どう?」と勧めたとき、「このあと試合ですから」ときっぱり断ったこと。試合開始まで数時間あったし、ましてメーンイベントはその2~3時間後。後援者から勧められたら、一口くらいは口をつけるのが普通だろう。細かなことだが、ファンの前にベストコンディションで出るため体調維持に万全を期している姿勢を感じたそうだ。

 昭和50年代後半の猪木さんはブラジルでの事業にも取りくんでいて、疲れている様子があった。しかし、ファンの目がある場に出ると、そんな表情はおくびにも出さず姿勢が変わったことも印象深い。その意識と行動こそが「一流選手なのでしょう」と言う。

 このことは、「学生選手も持つべき姿勢」だと言う。体調維持に万全を尽くさなければ、最高のパフォーマンスはできない。他人の目があるところ、すなわち先輩・後輩・ライバルのいる練習場や、応援者がいる大会会場では、「苦しくても弱みを見せない」という気持ちを持つべきであり、その“やせ我慢”による練習と試合によって実力がついていく。

 SNSを駆使して保護者と密な関係を築き、会場に来てもらうようにしているのも、応援者の「目」がエネルギーになるからだ。日本のサッカーが強くなったのは、Jリーグができて観客が飛躍的に増えたことも大きな要因。人の視線は実力アップに必要であり、多くの注目を集めるチームづくりで実力を高める腹積もりだ。

 沼田主将は「全員が主役、でリーグ戦へ向かいたい。初戦の周南公立大戦、必ず勝ちたい」と気合を入れる。一部リーグで闘った昨年春季は、体調不良者がいてベストな状態ではなかったそうだ。それだけに、今大会は最高の状態で臨めるようチームをけん引し、「一部定着を目指す」と誓った。

▲チームを牽引する沼田将吾主将。一部定着を目指す

▲唯一の女子選手の矢野楓奈(兵庫・芦屋学園高卒)。昨年、西日本学生チャンピオンに輝いた