※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
昨年のこの大会で6戦全勝をマークして優勝し、今年春季は一部リーグで闘いながら、再下位で二部に戻った帝塚山大が、再度6戦全勝をマークして優勝。再び一部リーグへ復帰することになった。最終日の6回戦で同志社大と全勝対決。第5試合で4勝目をマークしてチームの勝利を決め、7回戦の南九州大との試合も7-0で快勝。来季への弾みをつけた。
石山直樹監督は「一部に戻ることが、こんなに難しいのか、ということを痛感した大会でした」と、全勝とはいえ気の抜けない闘いの連続だったと振り返る。勝負所の試合も快勝だったが、「一戦、一戦、ヒヤヒヤでした」とのこと。ただ、昨年以上に選手の頑張りがあり、保護者の応援と周囲の支援があったからこそ乗り切れた壁であり、「感謝の気持ちしかありません」と言う。
大きな原動力は、鈴木貫太郎コーチが選手の心をつかんだ指導をしていること。同コーチはパリで金メダリスト2人を輩出した三恵海運のコーチとしても日本レスリング界の躍進に貢献しているが、ときに所属の選手を練習に参加させ、質を上げた練習を実施している。
ほかに、1980~90年代にかけて自衛隊で活躍していた月坂正吉(旧姓佐川)氏が指導してくれたことも勝因に挙げた。ボランティアの週1回程度の参加だが、同監督は「体験に基づいた日本トップレベルの指導をしてくれています。三恵海運の選手もそうですが、学生の未体験ゾーンをアドバイスしていただき、強化に役立っています」と言う。
同氏は徳島・貞光工高時代のインターハイと全国高校選抜大会を制して自衛隊へ。男子フリースタイル74kg級で全日本社会人選手権優勝5回などの実績を持つ強豪選手。1992年全日本選手権では前年の世界選手権8位でバルセロナ・オリンピック出場枠を取ってきた角崎朋博を破る殊勲。オリンピック2大会連続出場を目指す原喜彦(全国高体連レスリング専門部・現理事長)に敗れて優勝はならなかったが、宮原厚次(1984年ロサンゼルス・オリンピック優勝)らとともに自衛隊の一時期を支えた選手だ。
自衛隊を定年退官し、現在は大阪・枚方市で飲食業を経営。京都の部隊にいたとき、当時南京都高校で指導していた鈴木貫太郎コーチと知り合い、その縁で、店の定休日だけだが帝塚山大の指導をすることになった。
高校王者から自衛隊でレスリングを続けた人からすれば、選手の技術レベルはまだまだだし、当時は普通だった厳しさがパワハラと非難されかねない時代。指導に戸惑いもあるようだが、もともと「地道に指導するのは性に合わない」と言う。オレのやり方を見習え、という旧式の指導。それでも結果が出ている以上、正しい方向に向いているのではないか。
「圧勝で勝つ試合は何も面白くない」と言い、二部リーグで勝利を重ねるより、「一部リーグでヒリヒリするような試合のセコンドにつきたいです」と話し、来季の接戦・熱戦を期待した。
会場には、選手の保護者の数もかなり多かった。これは「鈴木コーチのSNS戦略のおかげ」と言う。同コーチは日体大の選手時代からその方面にも能力を持っていたようだ。今のようなスマホもなければ、よほど興味のある学生でなければカメラを手にすることが少なかった時代に、チームの記念写真撮影などを積極的に請け負っていたという。
同コーチが練習風景などを動画で撮影し、LINEやインスタグラムでOBと保護者へ頻繁に発信。それによってチームの動向に関心をもってもらい、協力を依頼し、チームへのサポートにつながっている。
書簡と電話くらいしか通信手段のなかった昭和ははるか彼方。メールやホームページも時代遅れ。現在はSNSの駆使によって広く発信し、支援を訴える時代。同監督は「リアルタイムで保護者やOBへ情報を発信しています。私にはできなかったこと(笑)。保護者の支援は、この5年間で倍になっていますね」と言う。
「応援をお願いします」という書簡が届いただけでは、腰が上がるものではない。ホームページにアップしても、アクセスしてくれなければ目にすることはない。SNSによる頻繁な情報の発信によって支援をお願いすることが必要。兵庫県の知事選挙にからんでも話題になったが、帝塚山大もSNS戦略がチーム力アップに大きく貢献したことは間違いないだろう(最下段にチームのインスタグラムを掲載)。
一部に復帰したとはいえ、入れ替え戦なしで自動昇降するこのリーグ戦のシステムは、二部リーグを勝ち抜いたことにプラスしての強さがないと、即降格となり、そんなチームは数多くあった。どのチームも同じだが、全日本大学選手権で2年連続2位の吉田奨健が卒業で抜けるので、その穴埋めも急務。今季を支えた57kg級の沼田将吾・新主将(3年)や86kg級の升田康太(2年=西日本学生王者)を助ける新戦力が必要。
同監督は「どの選手も、同じくらいのキャリアの選手には負けない、というスモールステップを達成し、それが積み重なれば一部定着につながると思います」と話し、各選手に地道な実力アップを期待する。スカウト活動も順調で、かなりの新加入が予定されている。「来てくれる以上、各選手の可能性を広げることに責任を持ちます」ときっぱり。
一般論として、チーム力が一気にアップすることはありえず、まず個人で実績を残す選手が出てきて、チームを引っ張ることで全体の力がアップする。帝塚山大の場合は、吉田がその役目を負っていて、勝ったときには派手なガッツポーズやパフォーマンスを披露して雰囲気を盛り上げてきた。
一部昇格の成果を出してチームを去る吉田は「去年はぎりぎりの勝利が多かった昇格でしたが、今年は快勝が多く、チームの成長を感じました」と言う。自身が個人戦で好成績を続けたことがチーム力をアップさせたのでは? との誘い水に、「練習ではボクをボコボコにする選手もいるんですよ」と、一部リーグでも通じる実力のある選手がいることを吐露。試合では緊張して実力を発揮できないケースが多く、自分が盛り立てることでチームの勝利につなげたことを強調した。「メンタル面でトレーニングを続ければ、一部に定着すると思います」と、後輩にエールを送った。
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