※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
2013~17年に東日本学生リーグ戦で5連覇を達成。オリンピック金メダリストも輩出した男子レスリングの雄、山梨学院大から初めて女子のチャンピオンが誕生した。
2023年JOC杯ジュニアクイーンズカップU23-65kg級を制したのは、昨年まで同大学唯一の女子選手だった寺本鈴。厳密には、2021年4月の同大会ジュニア(現U20)68kg級と同年6月の東日本学生選手権で優勝しているが、前者は入学して1週間もない時、後者はエントリー1選手での優勝。今回が“山梨学院大の女子が勝ち取った初のチャンピオン”と言っていいだろう。
寺本は「久々の優勝でうれしい反面、決勝では投げられてしまって、無駄なポイントを与えてしまったことで、納得いっていません」と、喜びの中にも反省の気持ちを口にする。とはいえ、この大会に向けて「こつこつと、自分のやるべきことをやってきました」とのことで、現段階では喜びの方が上回っている様子だ。
昨年は明治杯全日本選抜選手権で4位、全日本学生選手権と全日本女子オープン選手権で3位、全日本選手権で2位と、順位をきちんと上げてきた。「自分の中では、着実に進歩というかレベルアップしている感じはしています」。実力が上向いている手ごたえは感じており、ある意味では当然の優勝。「この勢いを(6月の)明治杯全日本選抜選手権へ持ち込みたい」と言う。
実力を伸ばせたのは、ハイレベルのチームの中で練習してきたからであるのは言うまでもない。「今の環境に感謝しています」と振り返る。技術的に一番学んだことを聞くと、しばらく考えたあと、「足りないものが多かったですから(笑)。すべて、というのは歯切れの悪い答ですけど、メンタル面を含めて学んだことばかりです。皆さん意識が高いです」と、技術のみならず、周囲の向上心の影響もあったことを話した。
この優勝で、10月にフィンランドで予定されているU23世界選手権の代表が内定し、世界に飛び出すことが決まった。これまでに出場した国際大会は、2018年世界カデット選手権(3位)、2019年アジア・カデット選手権(2位)など4回あるが、まだ優勝はない。「外国の選手は力が強いです。それをどうクリアするかが課題です。まだ時間があるので、しっかりやっていきたい」と、課題を口にした。
2021年には、世界ジュニア選手権に出場の予定だったが、コロナで派遣がなくなった。国際大会の出場は3年以上の間隔が空いている。その空白を埋めることも、課題のひとつだろう。
女子選手が一人しかいない環境は、「寂しくない、ということはなかったです」と苦笑いしながら、「この春、女子が4人、入りました。これからは、にぎやかに、楽しく、でも厳しくやっていきたい」と言う。
新入生の一人に、昨年の76kg級全日本チャンピオンでU20世界選手権も制している茂呂綾乃(東京・安部学院高卒)がいる(注=寺本が優勝した翌日のU20-76kg級で2年連続優勝)。明治杯全日本選抜選手権の結果次第では、9月の世界選手権(セルビア)代表となり、来年のパリ・オリンピック出場の最短距離を行くかもしれない。「刺激になります。それを今後のいい結果につなげたいです」と話し、強豪後輩の加入で、さらに上を目指す気持ちが強まっているようだ。
パリを目指すか、まず65kg級で世界一を目指すかは決めかねているようだが、「出る大会に全力を尽くすだけです。必死に頑張れば結果はついてくると思っています」と気合を込めた。