※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=布施鋼治)
「ウチのこれまでの一つの課題として、個人戦では強いけど、学校対抗戦では勝てない、という状況が続いていた。今回の優勝は素直にうれしい」
2月4日、栃木・FUKAI SQUARE GARDEN足利で開催された「正田杯関東高校選抜大会」の第1日。学校対抗戦の決勝で、大会4連覇中の千葉・日体大柏を5-2で破った東京・自由ヶ丘学園の田野倉翔太監督は、興奮さめやらぬ表情で同校史上初の戴冠を振り返った。
決勝は劇的だった。チームスコア2-1とリードして迎えた65㎏級では、八隅士和が日体大柏の古市一翔に5-7とリードを許していた。しかも、二度もニアフォールに持ち込まれるなど、戦局は極めて不利だった。
しかし、第2ピリオド残り時間30秒になると、ダイナミックな横崩しを決め11-7と逆転。その勢いで、まるでグレコローマンの試合のような豪快な反り投げも決め、チームの優勝に王手をかけた。
「僕は個人戦がなかったので、団体戦に力を入れようと思っていました。反り投げはいつも練習しているわけではありません。とっさの判断で出ました」(八隅)。
続く71㎏級、2年連続インターハイ王者の山口叶太は、第1ピリオド開始早々にローリングを連発し、高林心温に10-0のテクニカルフォール勝ち。翌日の個人戦を制する前に、母校に史上初の関東制覇という栄光をもたらした。
「日体大柏は本当に団体戦が強いチーム。もちろん、個人でも強い選手がいっぱいいた。悔しかったですけど、ひとつの目標であり、見習わなければならないところがたくさんあるチームでした」(田野倉監督)
練習では、リードされている状況、あるいはリードしている状況を想定しての練習を徹底的に重ねたという。その効果は、80㎏級に出場した小川滉の闘いぶりにも如実に現れた。試合終了直前までは5-6と1点差で負けていたが、ホイッスルが鳴るかどうかという瀬戸際でバックを奪って大逆転勝ち。
日体大柏はすぐにチャレンジを要請し、ビデオ判定となったが、その結果、残り時間0.04秒で小川が相手をコントロールしていることが判明。最後の最後まであきらめない気持ちが、勝負の明暗を分けた。
田野倉監督は、チーム全体の思いが強かったことを打ち明ける。
「根性論ではないですけど、厳しい環境の中で、どれだけ優勝したいかという思いを確認しながらやっていました」
小川や八隅の勝ち方のインパクトが大きかったが、「MVPは誰?」という質問に、田野倉監督は「全員です」と即答した。
「頑張ったのは逆転した2人だけではない。全員が頑張ったからこそ優勝できた」
関東を制したことで、学校対抗戦では3月末の全国高校選抜大会(新潟市)の優勝を狙う。「全国にはレベルの高い学校が非常に多いけど、関東で優勝したという自信を胸に、『やっぱり関東は強い』ということを証明したい」
“団体でも強い自由ヶ丘”に生まれ変わるか。