※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
カリフォルニア州遠征チーム団長 田中秀人(滋賀・栗東高教)
米国遠征が、3年ぶりにワシントン州チームとカリフォルニア州チームに分かれて行われた。
1月4日(水)、成田東武ホテルエアポートで結団式が行われ、全国高体連レスリング専門部の千葉裕司部長が「日本代表として誇りを持ち、節度ある態度で行動をすること」「この遠征ができることは、家族をはじめ、多くの関係者の方々のおかげであること」「感謝の気持ちを持つこと」「遠征先でしっかりとコミュニケーションをとり、交流を深めること」等を話され、第60回全国高校レスリング米国遠征がスタートした。
サンフランシスコ国際空港に、文化交流監督のトッド・ブランクさんらからの出迎えを受け、昼食ののち、1箇所目の交流先であるブレントウッドにあるリバティー高校へ向かって軽い練習で汗を流し、地元の選手と交流した。
その後、フォークスタイルの試合を観戦、セレモニー(日本選手団紹介)ののちに、ホームステイ先に移動。どの選手たちも、緊張しながらもコミュニケーションをとろうと積極的に言葉を交わしていたのが印象的だった。
2日目(1月5日)は、リバティー高校で、午前中に2時間程度の合同練習を行い、フォークスタイルのルールや技術を直に体験。それぞれが自身の技術を伝えるなど交流を深めることができた。その日の午後に親善試合が行われ、19試合を行って全勝。それぞれの選手の持つ素晴らしい技術を披露することができた。
3日目(1月6日)は、午前中、アメリカでは老舗のジェリービーンズの工場とミュージアムを見学し、午後からブレントウッドの商業施設を見学。
4日目(1月7日)は、次のホームステイ先のルーミスに向けて朝から移動となった。移動中のサンフランシスコでは、雨の降る中、練習を兼ねて金門橋(ゴールデン・ゲート・ブリッジ)を走り、移動で固まった体を動かした。
その後、商業施設(フィッシャーマンズワーフ)を散策。雨ではあったが、異国の素晴らしい風景等を堪能することができた。夕食を取り、ホームステイ先へ分かれた。生徒たちはホストファミリーと楽しく過ごすことができたようで、次のホストファミリーとの生活をワクワクして待っているのがとても印象的だった。
5日目(1月8日)は、前日夜のストームの影響で少しの停電や倒木等があったが、予定通り、午前中にゴールドラッシュ時の雰囲気を残すサクラメントの街並みを散策、午後から州の議事堂周辺を見学、その後、アトラクション施設で体を動かし、ホームステイ先に戻った。
6日目(1月9日)は、午後7時から2回目の親善試合が計画されていた。午前中、少しゆっくりできるようなスケジュールで、ホームステイ先に大きな敷地があり、小雨の中、選手たちはカートやミニバイクを運転させていただき、泥まみれになりながら生徒間の交流をはかれた。
商業施設見学ののち、デルオロ高校で合同練習。ここでは、アメリカのコーチ陣から巻き投げについての質問があり、倉本忠コーチ(滋賀・八幡工高教)が技術指導を行い、それを日本の生徒達が教え、交流をはかった。シエラ大学に場所を移し、15試合の親善試合を行い、全勝で終えることができた。
ここでは、フォークスタイルを行っているアメリカの選手たちの傾向を分析し、どの技が有効的かを考えて試合を行っていたのが印象的だった。
7日目(1月10日)は、3ヶ所目の交流先のマリポッサ高校に移動予定だったが、降雨で水害が発生して先に進めなくなり、予定を変更してマーセドという町に1軒屋2棟を準備していただいた。数十年ぶりの大雨とのことで不安ではあったが、ケン・ハメルさんらのご支援で、その後も順調に事業を進めることができた。
生徒たちは、ホームステイでの言葉の壁を感じていたこともあり、2日間の共同生活をホームステイと違う意味で満喫し、選手同士の交流を深めていた。
8日目(1月11日)は午前中に商業施設を見学し、午後4時からマーセド高校で行われる3回目の親善試合に向けてウォーミングアップ。親善試合は13試合が行われ、ここでも全勝することができた。選手の技術はもちろん、勝負にかける気持ちの強さを感じた。
9日目(1月12日)は、最後の交流先のフレモント高校(サニーベール)に3時間かけて移動した。そのあと1時間、授業を見学し、昼食後の2時間、授業参加。だれもが緊張した面持ちで授業に参加していた。
その後、合同練習。この高校には、以前日本に滞在し、1994年全日本選手権で優勝しているエリック・デゥースさん(注=当時の日本表記は「ドゥス」。この頃は日本在住の外国人も出場できた)が日本語教師として教鞭を取られており、レスリングのコーチもされていた。チームには実力のある選手が多く見られた。2時間の練習で交流をし、3日ぶりにホストファミリーのもとへそれぞれ分かれた。
10日目(1月13日)は、午前中、商業施設を見学。スタンフォード大学周辺を散策し、昼食後、UFC GYMで総合格闘技を体験。午後6時からの最後の親善試合に向けてウォーミングアップ。フレモント高校で行われた親善試合は、11勝1敗と初黒星を喫してしまったが、スタンフォード大学の1年生が6名出場しており、見応えのある、素晴らしい試合内容で終えることができた(注:同大学は2021年春、レスリング部を含む11クラブの廃止が決まったが、クラウド・ファンディングによる寄付が1250万ドル(13億5000万円)集まるなど、関係者の情熱によって存続を勝ち取った=関連記事)。
試合会場は体育館ではなくシアターホール。マットが十分に敷けるスペースがなく、また、タイマーや得点表示がない中での厳しい試合となったが、本当によく頑張ってくれた。技術的には日本選手の方が相手を上回っているように感じたが、パワーの面ではアメリカ選手(大学生)が上回っており、追い込まれる場面も多々見られた。要所、要所で日本選手の得意技が見られ、圧勝はできなかったものの、素晴らしい試合内容だった。
その後、タコスのケータリングを準備していただき、ホームステイ先に分かれた。
このアメリカ遠征で感じたのは、生徒達を育てる意味で、本当に素晴らしい事業であること。私も含め、多くの不安がある中、ホストファミリーの皆さんが、心のこもったおもてなしや気配りを最後までしっかりとしていただき、人の暖かさを感じられたこと。
そのほか、多くのことを感じることができた遠征だった。本当に感謝いたします。また、交流をする高校生の変化を間近で見ることができ、若いうちはなんでも吸収できる力を持っていると強く感じた。
ただ、試合がUWWルールで行われているため、圧勝で終わることが大半であった。米国は公式大会の真っただ中であり、フォークスタイルでの練習が行われている。
今後の米国遠征での交流試合では、フォークスタイルで行うことも、選手達の今後のレスリング人生において、異国の文化から様々なことを学んで大きな経験となり、本当の交流になるのではないかと思った。
この交流を通して、生徒達の考え方や表現力、コミュニケーション力など、すべてが成長し、力強く、他の選手達を引っ張り、前に進んで行ってくれることを心から願っている。この経験をしたメンバーの中から、オリンピックで活躍してくれる選手が出てくれることを心から期待する。
最後に、今回の米国遠征にご尽力いただきました、日本レスリング協会並びに全国高体連レスリング専門部や関係者の方に感謝したいと思います。ありがとうございました。