※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=ジャーナリスト・粟野仁雄)
今年11月、大阪府堺市で行われた全日本大学選手権で日体大が団体優勝し、自身も125kg級で優勝してMVP(最優秀選手賞)を取った伊藤飛未来。そのときに歓喜の輪の中心にいた時の笑顔は、2022年全日本選手権ではなかった。
男子フリースタイル97kg級の準々決勝で、昨年準優勝の吉田ケイワン(三恵海運)を破り、準決勝で二ノ宮寛斗(不二精機)を下して決勝まで進んだ22歳の伊藤は、決勝では石黒峻士(新日本プロレス職)にいいところなく敗れてしまった。
試合は、第1ピリオドこそ1-1だったが、第2ピリオドに入って急に差がつき出した。石黒にタックルで左足を取られると、そのままローリングを決められて4点を奪われてしまう。その後、両足タックルで背中から落ちて4失点。再度、両足タックルを決められて4点加点され、終わってみれば、なすすべもなく1-13のテクニカルフォールで負けてしまった。
会見では「(石黒に)明治杯で敗れてリベンジだと思ってやってきたけど、まだ足りないことがあった。負けてしまって悔しいし、自分が情けない」などとうつむいた。
試合内容については、「前半の入り方はけっこう改善できてきたけど、後半は浮いてきてしまっていた。筋力の面、スタミナの面など改善しなくては」と語っていた通り、途中からは見るからに辛そうな表情になってきて、腰高になって、あごも上がっていた。
勝利した石黒も会見で「前半はプレッシャーもあったが、中盤以降からは浮いてきていたし、疲労しているのがわかった」と明かしていた。
女子バレーボールで1984ロサンゼルス・オリンピック代表だった母・恵子さん(旧姓宮嶋)譲りの193cmという、この階級の日本レスリング選手としては異例の長身。それゆえ、伊藤は誰よりも懐が深いはずなのに、今回は首をかしげたくなるほど石黒に深々とタックルを決められていた。
埼玉県出身。様々なスポーツを経験したが、中学からはレスリング一辺倒になり、埼玉栄高校から日体大に進んだ。レスリング選手だった父・広道さんは、1988年ソウル・オリンピックの入賞者でもある。
「恵まれすぎたDNA」も、高校時代までは大きく開花することはなかったが、大学に入り、松本慎吾監督の指導を受けてからは急速に力をつけてきた。とはいえ、まだトップ級とは差があることを今回、痛いほど知ったはずだ。
記者会見で敗戦の弁を語った後は、すぐにスタンドに上がって、ひざを折り曲げて松本監督のアドバイスを聞いていた。全日本大学選手権優勝の際、松本監督は「リーチはあるが上半身と下半身のバランスなどが課題」などと話していた。
伊藤は「隙間を作ってしまったり、タックルの後で下に入ってしまったりしていた。この大会を反省して、伸ばせるところは伸ばして、来年6月の全日本(選抜選手権)に向けて頑張りたい」と最後に前を向いた。
今回の悔しさをばねに、名将の指導の元、明治杯に向けての半年間でどこまで化けられるか。