レスラー列伝 佐藤満

「オリンピック・チャンピオンの原動力、それは風化することのない悔しさ」

文=樋口郁夫(日本レスリング協会広報委員)

 1988ソウル・オリンピックで金メダルを取り、日本の伝統を守った佐藤満。その原動力は、3度の世界選手権で優勝できなかった悔しさ。その悔しさは長い年月が経っても消えていなかった。


(本文より)

 「思い出なんてないですよ! 嫌な思い出しか残っていません!」。2005 年の世界選手権を前にして、佐藤満強化コーチ(当時=現男子強化委員長、1988 年ソウル・オリンピック金メダリスト)が、筆者の問いかけに対して吐き捨てるように言った言葉だ。

 言外に「オリンピックで金メダルを取る選手の気持ち、何も分かっていないんですね。ボクの現役時代、何を取材していたんですか?」という意味があると考えるのは、自分を責めすぎだろうか。

 経緯はこうだ。2005 年の世界選手権はハンガリー・ブダペストで開催されることになっていた。ブダペストは1986年にも世界選手権を開催しており、佐藤強化委員長がフリースタイル52kg 級で銀メダルを取った大会だ(その前年もフリースタイルのみブダペスト開催で、初出場の佐藤強化委員長は銅メダルを取っていた)。