※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
「大学に入って、4年生まで1個もタイトルを取れていなかった。このまま卒業するんじゃないかな、という気持ちもあったんです。でも(学生の大会の)最後、内容はあまりよくなかったのですが、優勝することができて、ホッとしています」
2022年全日本大学グレコローマン選手権97kg級を制した2018年高校四冠王者・宮本海渡(日体大)は安堵の表情を浮かべた。
千葉・日体大柏高時代は、チーム事情で120・125kg級への出場が常だったが、それでも全国高校選抜大会、インターハイ、全国高校生グレコローマン選手権、国体を制する強さを見せた。
層の厚い日体大で鍛え、本来の87kg級で闘えば、大学でも“タイトルホルダー”になることが予想された。確かに東日本学生の新人戦では両スタイル合わせて3度の優勝を経験し、昨年の東日本学生秋季選手権も勝った。しかし、全日本と名がつく大会では優勝を手にすることができなかった。
「3年生くらいで学生タイトルをひとつくらいは取り、4年生では両スタイルすべて取ることを目標にしていたんですけど…」。
今年8月の全日本学生選手権は痛恨の結果だった。決勝まで無失点で勝ち上がり、優勝を目前にしながら、高校時代からの同僚でフリースタイルを中心にやっている白井達也(日体大)に黒星。「手の内を知り尽くしている相手ですが、フリースタイルを中心にやっている選手に負けたことは、本当に悔しかったです」
しかし、落ち込んではいられなかった。選手数の多い日体大では、各階級に1大学から1選手しか出場できないこの大会の代表に選ばれる保証はなく、不安も多かったというが、グラウンドを中心に先輩から技術を学び再起を目指した。
幸い、本来より上だが、97kg級に出場できることになった。「チームの優勝がかかっていましたから(頑張れた)。というより、自分のタイトル獲得のために頑張りました」という思いが開花した。
決勝は、1年生ながら97kg級で闘っていて全日本学生選手権3位の北脇香(早大)。左構えの宮本とはケンカ四つとなるが、宮本は「ケンカ四つは得意。1年生に負けるわけにはいかない」とばかりに、開始から左腕を差して積極的に攻めた。だが、その闘志が空回りし、自滅のような形で、あわやフォール負けのピンチを迎えてしまった。
かろうじて両肩をマットにつけることなく逃れ、試合が続くことになったが、「もしかしたらフォール負けするかも、と思いました。試合は何があるか分かりませんね」と苦笑い。このピンチに焦ることがなかったのは、地力に自信があったからか。松本慎吾監督からの「左差しを徹底しろ」とのアドバイスを実行することができ、最後は11-2のテクニカルフォール勝ちで優勝を引き寄せた。
攻撃精神を貫いたことは明白だった。フォール負けのピンチを迎えたのも、攻撃したゆえの結果。第2ピリオドにも両差しからの反り投げを仕掛け、チャレンジで0点と判定されると、“倍返し”とばかりに4点となるがぶり返しを決めるなど、技を仕掛ける姿勢がありあり。
「スタンドで押し勝ってパッシブを狙う」というグレコローマンで問題となっている“単調かつ退屈な試合”ではなく、技をかけての勝利を目指す気持ちがあふれていた内容。この姿勢があれば、さらに上に行く可能性は十分だろう。
12月の全日本選手権は、本来の87kg級で挑む予定。この階級の全日本は角雅人、阪部創、向井識起という自衛隊勢が上位を独占しそうな勢い(6月の明治杯全日本選抜選手権は塩川貫太=長野県協会=が3位)。この闘いに割って入るのはかなり厳しい闘いとなるが、「今回の優勝は自信につながります。あと2ヶ月、今回出てきた課題に取り組み、(対戦相手を)徹底的に研究し、優勝を目指して頑張りたい」と話した。