※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治)
「優勝はめっちゃうれしい。でも、まだまだ課題があると思いました」
2022年全日本大学グレコローマン選手権67kg級決勝は、三多見明(拓大)が昨年の72kg級王者・西田衛人(専大)に押されながら、第2ピリオドにパッシブで1ポイントを奪取。1-1のスコアながらラストポイントによって振り切り、高校からを通じて初のタイトルを手にした。
一度はバックを奪われて2点を追加されたが、チャレンジの結果、三多見の動きはリスク・レスリング(投げ技の失敗=スタンドで再開)と見なされ、0点となったことが勝負のキーポイントだった。「自分が攻めていたので、リスク(レスリング)と判定された。自分の度胸が認められたので、(失点)0に訂正されたととらえています」
三多見は日本生まれの日本育ちながら、両親はブラジル生まれで、日系ブラジル人三世になる。「先祖が日本からブラジルに渡ったけど、(日本以外の)血は混じっていないので日本人です。向こうで暮らしたこともない。でも、国籍はブラジルになります」
中学では柔道に打ち込んだ。2歳上の先輩から「レスリングをやってみないか」と誘われたことで、滋賀・日野高校に入学と同時にレスリングを始めた。
「柔道は道衣を握れる分、強引に技をかけることができる。対照的に、レスリングはつかむことができないし、滑ることもあるので、技術的な面では難しいと思います。」
同校のレスリングはモスクワ・オリンピックの幻の代表だった南敏文監督がグレコローマンの選手ということも影響してか、グレコローマンを選択する選手が多い。柔道出身で投げが得意だった三多見も、「投げをいかせるなら」とグレコローマンの道に進んだ。
高校卒業後は西日本にとどまってレスリングを続ける青写真を描いていたが、南監督の「三多見の才能なら東の方が才能を伸ばせる」という鶴の一声で拓大に進学した。日野高から同大学に進んだ先輩には、男子グレコローマン130㎏級でパリ・オリンピックを目指す園田新(ALSOK)や、総合格闘技に転向した倉本一真(リバーサルジム新宿Me,We)らがいる。
今回の優勝で三多見は自分が真の大学日本一になったとは思っていない。上には、同時期にスペインで開催されたU23世界選手権で銅メダルを獲得した曽我部京太郎(日体大)がいるととらえている。「ゲーム感覚でいうと、まだ裏ボスがいる感じですね。大学生のうちに曽我部選手に勝ちたい」
拓大の高谷惣亮監督は「現状では、まだ曽我部を攻略できない」とシビアに見ている。「もっとトレーニングしてグラウンドの精度を上げないといけない」
高谷監督は「三多見の身体能力は高い」と評価する一方で、「ドン臭いところもある」と釘を刺すことも忘れない。「そういうところを修正すれば、まだまだ伸びる」
日本国籍ではないので全日本選手権などには出場できなかったが、帰化を申請中で、遅くとも半年後には日本国籍を取得できる見込み。来年6月の明治杯全日本選抜選手権からは、シニアの全日本レベルの大会にも挑むつもりだ。「全日本レベルの大会で実績を残すことができたら、卒業後もレスリングを続けようと思っています」
4年生になったら、得意の一本背負いを武器にどこまで羽ばたけるか。