※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
【ベオグラード(セルビア)/文=布施鋼治、撮影=保高幸子】「1試合、1試合を全力で楽しみながら、思い切り自分のレスリングを出し切って世界チャンピオンに絶対なる。そう思って挑んだ大会だったので、目標は達成できたと思います」
セルビアで開催中の2022年世界選手権・第5日(9月14日)。女子50㎏級決勝は、須﨑優衣(キッツ)がオトゴンジャルガル・ドルゴルジャフ(モンゴル)を相手に圧巻の強さを見せつけ優勝した。この階級でもドルゴルジャフは小柄なだけに、須﨑は「闘う前はちょっとやりにくそうだと思った」と吐露するが、気持ちに迷いはなかった。
「自分がやるべきことをやろうと心に決めて挑みました。実際マットに上がったら、やりにくさは全然感じませんでした」
案の定、勝負は須﨑のワンサイドゲームで、第1ピリオド、1分24秒でフォール勝ちを決めた。その原動力は、鮮やかという表現がピッタリのがぶり返しだった。
「がぶりからいい展開が作れたと思います。正直、がぶり返しまでは考えていなかったけど、取った瞬間に『行ける』と思って、行きました。勇気を持って自分から攻めてよかった」
昨年の東京オリンピックでは金メダルを獲得しているが、世界選手権は4年ぶりの出場で、通算3回目の優勝だった。今春からキッツ所属の社会人レスラーに。所属のドイツ支社からもベオグラードの会場まで応援に駆けつけてくれた人がいたという。
「社会人になって、応援してくれる方もたくさん増えたので、ものすごく力になりました。それが頑張れるモチベーションにもなりました」
準決勝までの3試合も、すべてフォールかテクニカルフォール勝ち。パーフェクトといっていい試合内容での世界一だったが。それでも、須﨑は勝って手綱を引き締めた。「今回は東京オリンピックで闘ったマリア・スタドニク選手(アゼルバイジャン)やスン・ヤナン選手(中国)らが出ていない」
須﨑は「来月、スペインで開催のU23世界選手権にも出場する」と宣言した。これまでにカデット(現U17)、ジュニア(現U20)、シニアの世界選手権、そしてオリンピックを制している。U23でも頂きに君臨することができれば、世界五冠王──、つまりレスリング界初の“グランドスラム”達成となる。
「まだU23だけワールドタイトルを取れていない。私はレスリングの第一人者になりたくてやっている。来月のU23世界選手権に向け、しっかりと調整して優勝できるように頑張りたい」
今年12月の天皇杯全日本選手権から、パリ・オリンピックに向けての闘いがスタートする。同選手権には、須﨑のキャリアで唯一黒星をつけた田中ゆき(旧姓入江=佐賀県スポーツ協会)もエントリーしてくる可能性が高い。
須﨑は、今回の大会で海外の選手を相手に74連勝中と無敗の快進撃を続けるが、国内では田中に3度も土をつけられている。
東京オリンピックに向けた代表争い同様、再び激しい代表争いが繰り広げられるのか。それとも、海外だけではなく国内でも須﨑の独走は続くのか。