※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治/撮影=矢吹建夫)
2022年JOCジュニアオリンピックカップ最終日、U17の フリースタイル48㎏級は吉田アリヤ(JOCエリートアカデミー/東京・帝京高)が優勝した。決勝では、もう一方のブロックから勢いよく勝ち上がってきた赤木烈王(兵庫・猪名川高)を攻めまくり、11-0のテクニカルフォール勝ち。試合後、吉田は人懐っこそうな笑顔とともに大会を振り返った。
「今大会は、去年の全国中学選抜選手権と同じ階級に出ました。減量もきつかったけど、元の体重の力が出せました」
吉田の父親は「市川コシティクラブ」を運営するジャボ・エスファンジャーニ氏。兄である吉田ケイワン(三恵海運)と吉田アラシ(日大)も現役レスラーとして活躍中だ。
「ボクは6人兄弟。双子なんですけど、双子の妹(ロヤ)も安部学院高校でレスリングをやっています。妹との連絡? ちょろちょろという感じですね(微笑)」
2019年4月、JOCエリートアカデミーに入校したきっかけは、ジャボ氏の「本気でオリンピックを目指してほしい」という願いにこたえるためだった。「そういうこともあり、お父さんがアカデミーの菅芳松さん(監督)に僕を推薦してくれました」
初めての親元を離れての生活に不安がなかったといったら、うそになる。しかし、そこはアカデミーの先輩たちがケアしてくれた。
「アカデミーのガレダギ敬一さん(今大会ではU17・フリースタイル60㎏級に出場) や菅野煌大さん(同 65㎏級に出場)は以前から面識があって、結構仲良くさせていただいていたんですよ」
悩みの種は女子の後輩はいるが、男子の後輩はまだ入ってきていないこと。
「出げいこに行っても、相手はみんな高校生。高校は一番下の階級が51㎏級なので、みんな大きい。アカデミーの練習は菅野さんや女子の内田颯夏さん(今年度のジュニアクイーンズカップ女子57㎏級優勝)につけてもらっています」
今年4月、吉田は帝京高に進学した。なぜ昨年の全国中学選抜大会と同じ48㎏級にエントリーしたかといえば、この階級で7月にイタリアで開催されるU17世界選手権に出場しようと心に決めていたからだ。冒頭で「元の体重で」と語っていた理由は、すべて世界選手権出場のためだった。
「現在の適正階級は51㎏級だと思っているけど、今回は世界選手権に出るため48㎏級に落としました。国際大会に出るのは、今回が初めてなので楽しみです」
イタリアでは、父親の母国であるイラン代表と闘う可能性もあるが、吉田は「ウェルカム」と宣言する。「イランの選手と闘いたいという気持ちもあれば、倒したいという気持ちもあります」
母親は日本人。自分の体には両国の血が流れているという自覚がある。
「ネットでイラン人選手のファイトを結構見るけど、自分のそれと少し似ていると感じこともあります。やっぱりアカデミーに入るまで、ずっとお父さんにレスリングを習っていたということが大きい」
まだ成長期の過程ながら、高校ではまず51㎏級で闘うつもり。学校に行けば、レスリング以外でも全国レベルの実力を持つアスリートがたくさん在籍しているので、顔を合わせれば大きな刺激になる。
「レスリングは個人競技。団体競技をやっている人と共通点はそんなにないかもしれないけど、切磋琢磨していきたいですね」
フリースタイルが盛んなイランにはまだ行ったことがない。「ペルシャ語はあいさつくらいしかわからないけど、ぜひ行ってみたい」
日本代表として、父の祖国の土を踏めるか。