※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治/写真提供=RIZIN FF)
レスリング出身のMMA(総合格闘技)ファイターの活躍の場と将来は十人十色。4月16日、東京府中・武蔵野森総合スポーツプラザで開催された「RIZIN TRIGGER 3rd」に、レスリング出身のMMAファイターが顔をそろえた。
2015年全国社会人オープン選手権・男子フリースタイル74㎏級優勝の江藤公洋(専大~和術慧舟會HEARTS)は、雑賀“ヤン坊”達也(DOBUITA)を相手に第2ラウンド4分12秒、パウンドによってKO勝ちをおさめた。
一方、この日、MMAデビュー戦を迎えた2017年アジア選手権・男子グレコローマン71㎏級優勝の泉武志(日体大~一宮グループ~FIGHTER’S FLOW)はグラント・ボグダノフ(米国)に第3ラウンド3分16秒、TKO負けを喫した。
セミファイナルに出場する予定だった2012~14年に3年連続全日本選手権・男子グレコローマン60・59kg級優勝の倉本一真(山梨学院大~自衛隊~リバーサルジム新宿Me,We)は、対戦相手のぎっくり腰により、直前になって試合が中止になってしまった。全くついていない。
江藤は昨年までアジアで最大級の規模を誇る格闘技プロモーション「ONE Championship」を主戦場にしていたが、新型コロナウイルスで大会数が激減したこともあり、日本にUターン。国内で最大規模の「RIZIN」のライト級王座を目指し、RIZINの若手の登竜門や再生の舞台として知られる「TRIGGER」に参戦した。
「ONE Championship」では慎重でディフェンシブな試合運びが目立っていた江藤だが、この日は大変身。第1ラウンドから雑賀をグラウンドに誘い、パウンド(上からのパンチ)を打ち込み、肩固めを狙う。最後は第2ラウンド、バックマウント(背後からの馬乗り)からパウンド、ひじ打ちの連打を浴びせ、レフェリーストップ勝ちを呼び込んだ。
会心の勝利だっただけに、試合後の江藤はじょう舌だった。「今までの試合は、なるべく無傷で帰ろうとか気持ちの弱いところが出てしまい、渋い試合になっちゃったりすることもあった。今回は自分から勝負しにいって、(逆に相手の打撃を)もらって倒れてしまったら仕方ないという覚悟で臨みました」
気持ちの変化は、もう後がないという気持ちに加え、直前に初めて子供が産まれたことと無関係ではない。
「(産まれたばかりなので本人は)まだ分からないけど、お父さんは勝っても負けても胸を張って闘ってきました、と言えるような試合をしなくてはいけないと思いました」
インパクトのある勝ち方でアピールすることができたので、次戦は「RIZIN」の本戦にあたるナンバーシリーズに出場か。
そんな江藤とは対照的に、泉はほろ苦デビューとなった。ケージ(金網に囲まれた試合場)でやり合ったボクダノフは、高校時代までは米国でレスリングをやっていたが、その後ブラジリアン柔術に開眼。現在は母親の母国である日本を活動のベースにしている元英語教師だ。
2016年リオデジャネイロ・オリンピックで銀メダルを獲得した太田忍(日体大~ALSOK~パラエストラ柏)がMMAデビュー戦でグラップリング能力に長けた所英男に一本負けを喫したように、レスリング出身の新人は極めのエキスパートに追い込まれるケースが多い。
ボクダノフとの試合オファーをもらったとき、泉は「正直、一番やりたくない相手」だと思ったが、開き直って受けることにした。
「いずれグラップラーと当たる。ここを乗り越えないと上にはいけない」
不安は的中する。第1ラウンドからボクダノフにお株を奪われたようなタックルを決められ、寝技に持ち込まれる。何度か立ち上がりエスケープにも成功したが、時間が経つにつれて試合の流れはどんどん相手に傾いていく。
「中盤以降はマウントポジションを取られ、動こうとしても、また次の罠(わな)を仕掛けられていた」(泉)
とどめは第3ラウンド、バックマウントからチョークを狙われ、その体勢のままパウンドの追い打ちをかけられる。なんとか脱出しようと相手と正対したところでパウンドやひじ打ちの連打を浴びせられ万事休す。
インタビュールームに右目周辺を大きく腫らして登場した泉だったが、すでに気持ちは前を向いていた。
「テークダウンされないような技術を身につけ、ストライカー(打撃系格闘家)としてやっていきたい」
江藤と泉は、「RIZIN」では同じ階級(ライト級)なので、いつか直接対決があるかもしれない。
翌17日、同じ会場で開催された『RIZIN.35』には武田光司(専大~BRAVE)が登場し、スパイク・カーライル(米国)と対戦した。第1ラウンドこそ優勢に進めていたが、第2ラウンドになるとカーライルのフロントチョークによって逆転の一本負けを喫してしまった。
来る5月22日にはパンクラスで、2017年世界選手権3位の実績を持つ藤波勇飛(山梨学院大~ジャパンビバレッジ~EX-FIGHT)がフェザー級(65.8kg以下)でプロデビューを果たす。今後もレスリング出身のMMAファイターの動向に注目だ。