※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(司会=布施鋼治 / 対談撮影=保高幸子)
── 瀬古さんは2021年6月に日本陸上連盟の副会長に、富山さんは同年10月に日本レスリング協会会長にそれぞれ就任しました。心境の変化はありましたか?
瀬古 あんまりないね(微笑)。会長になったのだったら、あったんだろうけど、副会長は会長を支える仕事ですからね。ただ、「会長(尾縣貢氏)を支えてほしい」という話だったので、なったからには精いっぱい支えていきたい。本音をいえば、会長になりたかった(笑)。
富山 (驚いた表情で)なりたかったの?
瀬古 そりゃそうですよ。私は一番が好きだから。
富山 あっ、そうか。僕は二番が好きだけどな(微笑)。
瀬古 富山会長は、福田富昭・前会長とは長い付き合いなんですよね。
富山 僕がインターハイに出場しているときくらいに初めて出会っている。それからずっと兄貴、先輩、家族のような関係が続いています。福田・前会長がいて、僕の立場はその次という感じでキャリアを積んできたので、いきなり「会長!」と呼ばれてもピンとこない。
── 就任してから2ヶ月以上が経ちました。今でもそうですか?
富山 福田・前会長があまりにも偉大すぎたので、今でもそうなんですよ(微笑)。僕とは器が違うし、「自分が会長をやっていいのか?」という葛藤はいまだにある。でも、福田・前会長も80歳。いつまでも会長をやってもらうのは申し訳ないという思いがあった。正直、まだ100%受け入れた気持ちにはなれないけど、やることになった以上はやるしかないですね。
瀬古 福田さんのあとは、富山さんしかやる人がいなかったんだと思いますよ。
富山 レスリングは伝統もあれば、歴史もある競技。歴代のオリンピックを振り返ってみれば、たくさんのメダルも取っています。責任は重大です。
瀬古 福田時代は長かったし、すごい人じゃないですか。女子レスリングのムーブメントを作り上げたのも福田さんと言って過言ではない。その一方で、実業家であり、各方面に顔も広い。そうした中で組織を立て直す力にも長けている。そういう面を見ると、本当にすごい人だと思いますね。
── 偉大な会長の後を受ける富山会長に期待するものは?
瀬古 福田さんの真似をする必要はない。プレッシャーも相当かかっていると思うけど、富山会長のやり方でやればいい。
富山 本当にそうだよね。僕は僕の味でやればいい、と考えると、少しは気が楽になる。
瀬古 そう。気楽にやればいいんですよ。
富山 比べようはないわけですから。福田・前会長のような人は他にいないだろうし。幸いなことに、福田・前会長はいまでもシャキッとしているので、何かあればサポートしてくれる。
瀬古 「ハイ、サヨナラ、あとは知らない」という人ではないからね。
── 瀬古さんと福田・前会長の交流は?
瀬古 メチャクチャありますよ。夜、私が若い頃、山下さん(前述=JOC会長)らと一緒にどこかで食事をしていて、たまたま福田さんもいたら、「いいよ、お代は全部オレが払っておく」と言ってくれる人でした。いつもそうでした。最近は一緒にゴルフをよくしています。
富山 どんな会話をしているの?
瀬古 「富山をよろしく」と(笑)。
富山 (笑)
瀬古 20年も前から、「山下、富山、瀬古は仲がいい。これからのJOCは君たちが仕切るんだ」と言っていました。福田さんの予言はズバリ的中しましたよね。我々が現役時代から、「たぶん、こいつらなら大丈夫」と期待してくれていたんだと思う。先見の明がある人だと思います。
富山 いい話ですねぇ。
瀬古 やはりそうだな、という人が当たりまえの地位に来ている。富山会長には福田さんも期待していると思うよ。ただ、そのプレッシャーはあまり感じない方がいい。富山さんには富山さんのいいところがあるので、必要以上のプレッシャーがあったら小さくなってしまう。堂々と構えてやってよ。そして、長になったら、どんなブレーンをつけるかが大事になってくると思う。
富山 僕もそう思いますね。
瀬古 会長はドシッとしている一方で、番頭は動かないといけない。普段はブレーンが動いて、タイミングを見計らって会長が表に出て行く。それが理想だよ。
── 東京オリンピックが1年延期されての開催だったので、2024年のパリ・オリンピックまであと3年しかありません。いつもより1年短いスパンを、どのようにとらえていらっしゃいますか。
瀬古 12月5日に福岡国際マラソンが終わったばかりだけど、ここからパリ・オリンピックへの道が始まりました。我々は新たにJRRC(ジャパン・ロードランニング・コミッション)というプロジェクトを立ち上げ、JMC(ジャパンマラソンチャンピオンシップシリーズ)という企画を進めてまいります。そのJMCと連携させて2023年にはパリ・オリンピックの代表選考会「MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)」を開催する予定です。
富山 レスリングの場合、2021年は東京オリンピックのあと、10月に世界選手権がノルウェーであって、若手中心のメンバーで臨みました。その結果、女子4階級、男子1階級の5つの金メダルを獲得することができた。
瀬古 オリンピックと一緒だ。
富山 オリンピックは18階級だけど、世界選手権は全部で30階級あるんだよ。
瀬古 (驚いた表情で)30階級! そんなに細かく分けられているんだ。
富山 オリンピック階級のほかに非オリンピック階級というのがある。この間の世界選手権ではグレコローマンで1人優勝したけど、オリンピック階級ではなかった。でも、若手が伸びてきているし、東京オリンピック出場組もほとんど続けると思うので、パリも(金メダルの量産が)行けるんじゃないかと期待しています。
瀬古 レスリングは男女とも世代交代は多いの?
富山 東京オリンピックの代表で、選手活動を続けそうな選手が多いです。男子で金を取った(フリースタイル65㎏級の)乙黒拓斗選手は年齢的にもまだまだ勝てる。女子は須﨑優衣(50kg級)も若いし、結婚した向田真優(53kg級)もまだいける年齢です。川井姉妹も、姉の梨紗子はオリンピック直後に結婚を発表したけど、女子は結婚してからも強いですからね。すぐに世代交代できる状況ではないけど、しないとならない。
瀬古 グレコローマンはどうなの?
富山 60㎏級の文田健一郎は世界選手権で2度も優勝していて、東京オリンピックでも一番期待が高かった。決勝では伏兵と言えるキューバ選手に負けてしまった。オリンピックは分からないよねぇ(しみじみと)。試合当日、いかに勢いに乗るかだよね。
── 今年はアジア大会(中国・杭州)がありますが、この位置づけは?
瀬古 陸上は来年7月にアメリカのオレゴンで世界選手権があります。本来なら2021年に開催する予定だったけど、オリンピックが1年延期になったことで1年伸びてしまった。アジア大会は9月ですよね。陸上はどうしても7月の世界選手権の方を優先することになるでしょうね。特にマラソンはそうなる。
富山 レスリングは2021年12月の全日本選手権優勝者をアジア大会に派遣する予定です。全日本選手権には、東京オリンピック出場組は高谷惣亮しか出ていないし、アジア大会の実施階級ではない。アジア大会は各階級のナンバーワンがそろう大会ではなくなりそうです。しかも、世界選手権とアジア大会のインターバルが1週間くらいしかない。
瀬古 レスリングの世界選手権は毎年やっているの?
富山 毎年やっている(注=オリンピック開催年を除く。2021年は両大会が開催されたり、女子のみの世界選手権が開催されるなど例外もあった)。来年はアジア大会とほぼ同時期なんです。期間をもう少しずらしてくれというリクエストを出したけど、ずらせないということだった。
瀬古 世界選手権とアジア大会に2ヶ月のインターバルがある。短距離はアジア大会にも第一線の選手が出ることになるかもしれない。問題は選考。6月中旬に日本選手権があるんだけど、それを待っているとアジア大会のエントリー(4月末)に間に合わない。開催は9月なのに、アジア大会はなぜエントリーが早いんだろうね。
富山 本当に早いよね。