※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=布施鋼治)
「ウィニングランは、先輩たちがやっているのを見て、自分もやりたいと思っていた。最高でした」
ノルウェー・オスロで開催された2021年世界選手権・第6日(10月7日)、女子72㎏級で古市雅子(自衛隊)は日の丸を背にマットを一周した。
決勝は2020年アジア選手権優勝のジャミラ・バクベルゲノワ(カザフスタン)と激突。世界選手権2度目の出場にして、金メダルを獲得した。
前日の準決勝後、古市は「ジャミラ選手は2年前の世界選手権の3位決定戦の相手」と打ち明けた。「カデットの頃からずっとやり続けていて、全部勝っている。今回もしっかり勝てるように頑張りたい」
古市は第1ピリオドからプレッシャーをかけ続け、タックルからバックを奪い先制する。第1ピリオド終了間際には押し出しで1点を追加。結局、そのまま3-0で粘るジャミラを振り切った。
「決勝はいつも通りの動きができていた。周りの声も聞こえていたので、いい状態で臨めたかと思います」
これで古市はカデット(3度)、ジュニア(同)、U23(1度)に続き、4部門の世界タイトルを手にした。世界では、奥野春菜(現自衛隊)に続いて2人目の快挙だ。
勝因は? 「勝ちたいという一心で勝てたと思う」
今回の女子のメンバーの中では唯一世界選手権経験者で、キャプテンを務めている。古市は全てをプラスにとらえ、他のメンバーから刺激ももらっていた。「若い子の頑張りを見て、自分も頑張ろうと思いました」
試合後は英語での質問にも耳を澄ませ、その趣旨を通訳なしで理解するなど研究熱心な面も見せた。その一方で、課題を見つけることも忘れない。
「勝ちにこだわってしまうと、どうしても動きが硬くなったり、やりたいことができなくなったりする。優勝することができてよかったですけど」
古市が優勝を決めた日は、59kg級の花井瑛絵(至学館大)と68kg級の宮道りん(日体大)が準優勝、57㎏級の南條早映(至学館大)が3位と、いずれもメダルを獲得したものの頂きを極めるまでには至らなかった。だからこそ最後に登場した古市の活躍は際立っていた。
「(花井や宮道が負けたことを受け)ちょっと考えてしまったけど、そういう状況だからこそ金を取る、と決意していました」
とはいえ、72㎏級は非オリンピック階級。2024年パリ・オリンピックに向け、階級を上げるか下げるかはまだ決めていない。笹山秀雄・女子強化委員長(自衛隊)は「68㎏級に下げるのでは?」と予想する。「古市選手は通常体重がそんなに重くないので」
東京オリンピックで68kg級に出場した2016年リオデジャネイロ・オリンピック69㎏級金メダリストの土性沙羅(東新住建)も、一部の報道によればパリを目指す意欲を示している。今後、68㎏級の代表争いは激しさを増していくのか。