※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)
昨年12月の全日本選手権と今年5月の全日本選抜選手権を制した規格外の高校生は、やはり強かった。2年ぶりに開催されたインターハイの女子53㎏級で藤波朱理(三重・いなべ総合学園)が、全4試合中、3試合がテクニカルフォール勝ちで、残る1試合はフォール勝ちという、ぶっちぎりの強さを見せつけたうえで優勝した。
2年前、高校1年生で出場したインターハイでも、藤波は同じ階級で優勝しているので、2大会連続でインターハイを制したことになる。それでも、藤波は反省することを忘れなかった。「決勝戦では相手(尾西桜)に足を触られてしまい、先にパッシブをとられてしまった。相手の方が動きが早かったので、そういう闘いもあることを学べた点はよかったと思います」
藤波は全日本選手権と全日本選抜選手権でいずれも初出場ながら初優勝を遂げたので、今年10月にノルウェーで開催される世界選手権に駒を進めている。すでに藤波の視線は同選手権に向けられていた。
「それまでにどうしても身につけたいスタンドのテクニックがある。どんな技であるかは明かせないんですけど…」
それまでに取り組まなければならない課題があることも分かっている。現在の藤波のレスリングは、9対1の割合でスタンド・レスリングが中心。世界選手権を前にグラウンドのテクニックを磨きたいと思っている。
「いざというときに助けてくれるのがグラウンド、ということもあると思う。グラウンドができたら、もっと試合展開が楽になると思う。世界選手権までにスタンドとの割合を7対3くらいにしたい」
全日本選手権や全日本選抜選手権に出たときもそうだったが、世界選手権に向けてのプレッシャーも全くない。
「年齢も下だし、頂点(優勝)しか見ていないです。強い選手とやるのが好きなので、今はワクワクする気持ちでいっぱい。(世界での闘いは)想像もつかないけど、暴れたいと思います」
東京オリンピックからも大きな刺激をもらった。目標は自分と同じ53㎏級で金メダルを獲得した向田真優(現姓志土地=ジェイテクト)だ。「あの人を越して、自分がパリに行きたい。強くそう思っています。だから1日も早く越したい。闘いたい」
奇しくも向田は同郷(三重県)で、藤波にとっては小さい頃から大舞台で活躍してきた選手。強く意識しているのだろう。試合後の会見では、一度も向田の個人名を口にすることはなかった。
「もちろん、今も憧れの気持ちも持っています。私は今年12月の全日本選手権で当たるんじゃないかと予想しています」
“あの人”の背中は、もう見えているのか。