※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)
「自己採点? 減量が結構きつい中で優勝できたという点では、点数は高い」
2021年全日本選抜選手権の第2日(5月28日)。男子フリースタイル86㎏級優勝の石黒隼士(日大)は、いつも通りポーカーフェースで試合を振り返った。「ただ、計画性のない落とし方をしているので、そういう部分では50点くらいですかね」
4月のアジア選手権(カザフスタン)に出場したときにはウェーブのかかった長髪だったが、今大会に出場する2週間ほど前、ばっさりと切り落とし、スキンヘッドにした。その理由がふるっている。「髪の毛がなくなったら、相手が怖く感じると思って。同期に頼んでバリカンでバリバリ刈りました」
いかつい出で立ち(いでたち)となった石黒は威圧感抜群。その存在感は大会2日目の中でも群を抜いていた。「相手はビビっているように感じました」
その効果も手伝って(?)、初戦の山田修太郎(山梨学院大)戦は9-3で突破。続く準決勝の白井達也(日体大)は10-0のテクニカルフォール勝ちをおさめた。「自分では、結構この髪形(?)が似合っていると思うのですが、周りの評価をもっと聞いてみようと思います。正直、現時点では、あまりよくないんですけど」
しかし、準決勝の直前、石黒は棄権するかどうか迷いに迷い、コーチやキッズレスラー時代から応援してくれている父に相談していたことを打ち明ける。というのも、今回の減量の幅は8~9㎏。その余波は想像以上に響いた。「アジア選手権が終わってから、あまり減量する気になれなくて、ここ1週間で一気に落しました」
苦しい減量明け。当日計量のレスリングの場合、計量から試合までの間隔が短いので、体力回復の時間は限られる。石黒は実際にマットに立つ時間になっても、体調はまだ戻っていなかった。
「このまま闘っても、いい結果は望めないと思ったんですよ。(体調の悪さを)ズルズル引きずるのは嫌だった。最終的に『できることだけやってみよう』ということで話は落ち着き、マットに上がりました」
その開き直りが功を奏したか、決勝は松雪姉妹の兄・松雪泰成(レスターホールディングス)を7-1で下し、この大会の初優勝を決めた。石黒は昨年12月の全日本選手権も制しているので、今年10月開催の世界選手権(ノルウェー)への出場切符を初めてつかんだ。
目標は2024年パリ・オリンピックでの金メダル。石黒にとって、世界選手権出場はビクトリーロードの第一関門ということになる。「2年後に行なわれるオリンピック予選(前年度の世界選手権)で1位になって、オリンピックにつなげる計画を立てています。期待していてください」
スキンヘッドのビッグマウスは、夢を夢のままで終わらせない。