※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫)
昨年12月の全日本選手権・女子62kg級で初出場初優勝を飾った尾﨑野乃香(慶大)の勢いが止まらない。この大会でも圧勝で初優勝し、インタビューでは、「絶対に優勝して世界選手権に出るという目標を持って練習してきたので、実現できたことにホッとしています。初めて世界選手権に出られるのでワクワクしています」と言葉を弾ませた。
この日の尾﨑は、18歳の若さながら「危なげない」と印象づける落ち着いた闘いぶりだった。2試合のみの出場だったが、準決勝(初戦)と決勝で得意にしている低い姿勢からのタックルでしっかりポイントを獲得。守っては無失点で完封勝ち。
記者から、「なぜ、それだけフィジカルが強いのか」と問われると、「レスリングでもトレーニングでも常に全力を出すように心がけています。きつくなってからが練習だと思っている」と、日頃の追い込みが強いフィジカルを生み出していると胸を張った。
オリンピック3連覇の吉田沙保里さんにあこがれ、小学生のときにレスリングを始めた。中学時代もさまざまな大会で優勝を飾り、高校からはJOCエリートアカデミーに所属してさらに腕を磨いた。世界カデット選手権は2018年(57㎏級)、2019年(61㎏級)と圧倒的な強さで連覇。長い手足に恵まれる大器は、世界カデット選手権と2018年ユース・オリンピックを含む7つの国際大会すべてで優勝を飾り、その将来を大いに嘱望されている。
全日本選手権を制して、いよいよシニアでも存在感をアピールしようとした矢先、希代のホープがレスリングでは決して強豪とは言えない慶大に進学したのは、少し意外な印象を与えた。これについて、本人は次のように語っている。
「文武両道を常に頭に入れていて、勉強も頑張りたいと思ったから慶応に進学しました。勉強は大変だけど、だからといってレスリングをおろそかにすることはなく、今は両立できています。練習は主にJOCエリードアカデミーにお世話になっているので、練習環境の大きな変化はありません。4年間、頑張ろうと思っています」
所属する環境情報学部は同大学の湘南藤沢キャンパスにあり、通学は都内から交通機関を乗り継いで片道2時間かかる。それでも、通学の電車で勉強するなどして移動時間を決して無駄にしない。興味を持っている心理学や語学を勉強してレスリングに役立てようという狙いもある。
大学生として新たなスタートを切り、世界選手権という大きな目標を手に入れた。「世界であなたの実力は通用するのか?」。そんなストレートな質問に尾﨑はよどみなくこう答えた。
「自分は構えが低くてタックルが武器なので、素早いタックルからのアンクルホールドで返すとか、グラウンドへの移行で、海外の選手に勝ちたいと思っています。課題はスタンドからグラウンドへの流れ、組み手からのタックルです。体幹が強い海外の相手をしっかり崩して、だれにでも通用する自分の形をつくっていきたいです」
2024年にパリで開催されるオリンピックに近づくためにも、初の世界選手権は優勝しかないと考えている。今が伸び盛りの18歳は、世界のライバルたちにとっても脅威の存在となることだろう。