※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(取材・撮影=布施鋼治)
「野球に例えると、今大会のテーマは全員野球。全員で頑張るしかない!」
3月24日(水)から26日(金)まで新潟・新潟市東総合スポーツセンターで行なわれる「風間杯全国高校選抜大会」に向け、埼玉・花咲徳栄高の高坂拓也監督はそう宣言した。
新3年生で今チームのキャプテンを務める仁木勇斗も、高坂監督の意見にうなずく。「(抜けた)3年生は個々の実力がとても高かった。その分、その力に頼っていた分がある。今回は全員が主役となって闘いたい」
昨年3月に予定されていた同大会は、新型コロナウイルスの感染拡大により一度は中止が発表された。しかし10月に開催されることになり、千葉・日体大柏が4連覇を達成した。
花咲徳栄は3回戦までを不戦勝、6-1、7-0で勝ち上がり、準々決勝で鳥栖工(佐賀)に4-3の勝利。しかし、準決勝で日体大柏に3-3から125kg級を落として敗れ、3位に終わった。
高坂監督は今大会、日体大柏も含めて他校のすべてがライバルととらえている。「実際のところ、鳥栖工(佐賀)は去年のメンバーが残っているし、強いと思う。ただ、コロナ禍の中、飛び抜けて強いチームがあるのかといえば、首をかしげざるをえない。実際、試合をやっていないので、僕たちに限らず皆さん手さぐりの状態でしょう。今年に限っていえば群雄割拠の状況なのかな、と」
非常事態宣言の中、練習時間は2時間と、いつもより短いが、その中で結果を出さないといけない。しかし、現在の制限された環境を、仁木主将は「逆にチャンス」ととらえている。
「短い時間だと、集中力がその分持続できる。以前やっていた練習より、いかに内容の濃い練習ができるかを日々考えながら取り組んでいます」
花咲徳栄といえば、有名プロレスラー(現在、新日本プロレスで暴れているる“モンゴル選手”の前身と思われる選手)や新進気鋭のMMAファイター(中村倫也)を輩出したことでも知られるが、全国規模の大会でも、2012・14年のインターハイ優勝を筆頭に、コンスタントに好成績をおさめている。
指導方針は「脱・強ければそれでいい」-。
「『練習が忙しくて宿題ができませんでした』という状況にはさせたくない。コロナの前には、週1回は練習を早く切り上げ、勉強させたりしていました。寮には僕や前田頼夢コーチが交互に泊まりに行くようにしているけど、週何回かは結構遅くまで勉強している部員もいますね」(高坂監督)
文武両道を目指して、それを貫く中、昨年の大会の個人戦では65kg級の計良涼介(早大進学)が優勝。向田真優の実弟で、全国中学選抜大会の優勝経験もある向田旭登(今春3年生)が昨年の51㎏級で準優勝をおさめた。それも、選手の自主性を重んじるという高坂監督の指導方針の成果か。
取材日の練習が終わると、1年生、2年生がそれぞれ円陣を組み、ミーティングに没頭する場面も。高坂監督や前田頼夢コーチが口をはさむ場面は皆無だった。ふたつの円陣を眺めながら、高坂監督はつぶやく。「ウチは気持ちがやさしい子が多いと思うけど、全体的に伸びている気はします」
“猛攻”というキャッチコピー通り、オリンピックイヤーの花咲徳栄は全員レスリングで逃げない闘いを貫けるか。