※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)
10月9~11日の全国高校選抜大会(新潟市)に続き、全日本大学グレコローマン選手権でもコロナ対策には腐心した。同大会の競技委員長で東日本学生連盟の吉本収理事長(神奈川大監督)は「まずコロナ禍の中で大会をやるか否かの判断をするのが難関でした」と振り返る。
「8月に(岐阜県で)やる予定だった全日本学生選手権は、約850名の申し込みが見込まれましたが、(コロナの影響で)中止にしました」
その後、9月末に群馬県前橋市で使える会場が見つかり、こちらも選手申し込みの段階までいく。それでも理事の中では意見が割れた。「反対意見は、『9月開催はまだ早い』というものでした。レスリングは濃厚接触競技。あの時点では、まだどこも大会を開催していなかったので、前橋開催案も中止になりました」
では、なぜ今大会は開催することができるようになったのか。それは大学スポーツの中でも活動を始める競技が出てきたことと無関係ではない。「コロナの感染は収まり切るものではないし、今も高い(感染の)水準を維持している。当然、この大会もやるか否かの意見がぶつかり合ったけど、その中でやろうという話に落ち着きました」
とはいえ、決定から開催まで約1ヶ月しかない。今回は通常の開催手順を踏めばいいというわけではなく、コロナの感染防止対策もしなければならない。吉本競技委員長は「開催まではバタバタでした」と思い返す。
感染防止対策として、まずは出場選手やセコンドに大会までの2週間の検温の提出や大会当日の検温を義務づけた。会場となった駒沢オリンピック公園総合運動場体育館入口には検温用の2台のセンサーカメラが設置されたが、その仕切りはALSOKに頼んだ。
「自分たちでもできなくはないけど、運営はみなボランティアでやっている状態。お金を使うことになるけど、そこはALSOKさんにしっかりやってもらおう、ということになりました。おかげで検温の部分は身軽でした」
その一方で、PCR検査や抗体検査の実施は見送った。「やるべきという意見もあったけど、高額な費用がかかる検査代を学生に負担させるのはいかがなものか、という意見があり、最終的には検温で異常を調べる検査をしっかりやろうということになりました」
全国高校選抜大会同様、無観客試合とし、各大学の応援団や選手の保護者の来場も認めず、2階席は各大学の“控室”として使用された。吉本競技委員長は「なるべく下(アリーナ)に人を降ろさないという状況を作りました」と明かす。「アリーナに下りることができるのは、次の次に出番がある選手とセコンドまでにしました」
会場や日本スポーツ協会のガイドラインに沿い、他にもやれるだけのことはやった。3マットの試合場は、いずれも10試合進行するたびに消毒作業を入れた。アリーナへの入場を制限するために中央入口は閉鎖され、資材出し入れ口のシャッターは換気を良くするため開放状態となった。
急きょ開催の大会だっただけに、エントリーの減少も予想されたが、昨年より10人程度増えたという。吉本競技委員長は「それだけ選手も試合に飢えていたのでは」と分析する。
「グレコローマンの大会だったけど、フリースタイルの選手が出てくる大学もありましたね」
大会が終わっても、まだ終わりではない。2週間以内に出場選手や関係者から感染者が出なければ、吉本競技委員長はようやく胸をなで下ろすことができる。コロナの時代の大会開催は試行錯誤が続く。