※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)
「ちょっと出来すぎなんじゃないですかね」
全日本大学グレコローマン選手権で12年ぶりに団体優勝を飾った山梨学院大の小幡邦彦監督は相好を崩した。
「ある程度、グレコローマンもできる選手がいたので、優勝できるチャンスはある」と思う一方、山梨学院大のメンバーはみなフリースタイルをメーンにやっており、“グレコローマン専業”の選手は皆無だ。小幡監督がそう思うのも無理はない。
初日(15日)が終わった時点で小幡監督は「うまくいって2位か3位は狙えるんじゃないか」と考えていたが、「(初日終了時点で1位と2位だった)拓大と日体大は2日目に強い選手が残っていましたからね」と、楽観視はできなかった。
しかし、日体大は活躍が期待されていた67㎏級の曽我部京太郎が敗れるなど失速。拓大も、2日目の活躍は63㎏優勝の竹下航生だけにとどまった。逆に、山梨学院は87㎏級の山田修太郎が2年連続優勝、130㎏級のバクダウレット・アルメンタイが2階級にわたって3年連続優勝を飾り、山梨学院大を優勝へと導いた。
小幡監督は「勝負の要は山田やアルメンタイだった」と振り返る一方で、67㎏級で決勝まで進出した西谷海音(4年=岡山・高松農高卒)の活躍も評価した。
「西村は、高校時代は(主立った)成績が一切ない選手だけど、今回初めて全国大会で2位になった。いつも練習では同じ階級の乙黒(拓斗)にバラバラにされているけれど、コツコツと真面目にやってきた成果が報われたと思いましたね」
団体優勝の要因のひとつに、「グレコローマンはウチのメーンのスタイルではないんだから、楽しんでやればいい」と、リラックスしたムードで送り出せたことをあげた。
「グレコローマンだからといって、変にグレコローマンをやる必要はない。フリースタイルの延長線上で勝負すればいい。無理に投げ技を狙う必要もない。選手たちにはそう伝えていました」
その思惑通り、山田修太郎は神澤翔(青山学院大)との決勝でタイミングのいい胴タックルでテークダウンを取り、左右のローリングで大量得点。11-0のテクニカルフォール勝ちを収めた。
優勝したもうひとつの要因として小幡監督は地方大学の“地の利”をあげた。「東京都に比べると、山梨県はコロナの感染者が少なかった分、練習が全然できなかった期間というのは、たぶん2週間くらいしかなかったと思います」
といっても、スパーリングなどの濃密接触トレーニングはしばらく自粛せざるをえなかった。小幡監督は「選手たちも途中で腐らずによく耐えてくれた」と思い返す。
「高田先生(裕司=山梨学院大レスリング部総監督)と一緒に、『いつ試合になってもいいように100パーセントのコンディションにしておかないといけない。それが選手としての仕事』と伝えていました」
大会翌日の17日は40歳の誕生日なので、小幡監督は選手たちの想像を越えた活躍に感謝した。
「1日前に最高の誕生日プレゼントを贈ってもらった感じがします」