※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=保高幸子)
東京オリンピック・レスリング競技の日程まで約300日。新型コロナウィルスの流行により、しばらく行われていなかった男子フリースタイルの全日本合宿が10月1日、実に約半年ぶりに東京・味の素トレーニングセンターに戻ってきた。
男子フリースタイルでは金メダルの最有力候補である65kg級の乙黒拓斗(山梨学院大)は「(全日本チームには)世界トップの選手も何人もいる。その中で切磋琢磨できることは久しぶりで、楽しい」と、半年ぶりの全日本合宿の心地よさを噛みしめているようだった。
「トップの選手が集まって練習できる環境に感謝したい。東京オリンピックに向けて身が引き締まる思い」と、あらためて自身の掲げる目標に照準を絞る。
コロナウィルスの脅威の最中、中には練習がまったくできないチームもあったが、大都市で感染が広がっている間も、山梨県は影響が少なかった。「大学自体が一時閉鎖になり、マットが使えない時期はありましたが、最低限のトレーニングはずっとできていました」と乙黒。最近は平時と変わらない練習ができているという。
「東京で(オリンピックを)やるし、出場が内定している。何年もそこを目指してきた。一時期(3月ごろ)、オリンピックが開催されないかもしれないと噂された時は、残念な気持ちだった」と、かすかに不安になったことを明かす。「絶対開催されてほしい」という気持ちだった。
最近、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が開催に向けて自信と意欲を示すなど、東京オリンピックを待ち望む人間にとっては明るいニュースが続いている。オリンピック開催の可能性が高まってきた。
だが、乙黒は至って冷静だ。「自分がやってきたことは、オリンピックのために準備すること。気持ちの変化はない。ずっと狙っているし、常にいい状態」と一喜一憂はせず、「日々強くなるために練習を積んでいる。モチベーションは下がっていなかったし、(だから上がることなく)何も変わらない」と淡々と答える。
試合の間隔が空いたことを心配する声もあるが、乙黒はもともと試合の数をこなすタイプではなく、そこに恐怖はない。「出場する大会を絞るほうが、一回一回集中できる。試合に多く出場すると、なあなあに適当に試合をしてしまう」と、最大限まで集中力を高めて一つの大会に集中したいという。
間もなく決定される見込みだが、12月にセルビアで世界選手権が開催される可能性があり、同時期に全日本選手権も予定されている。周囲はオリンピックの前に試合に出場するかどうかが気になるところ。
「まだ分からないです。コーチと相談したいと思いますが、どちらかには出たいと思っています」。もうすぐ、乙黒のエキサイティングなレスリングが見られるかもしれない。
日々強くなっている実感について尋ねると、「あります。もちろん」と力強く答えた。オリンピックへ向け、期待は高まるばかりだ。