2016.11.15

【全日本大学選手権・特集】年少時代から通じて初の“全国王者”へ…57kg級・井出光星(専大)

※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。

(文・撮影=増渕由気子)

 けがで出られないエースの代役で初の全国王者! 全日本大学選手権の57kg級は井出光星(専大)が、準決勝で昨年の学生王者の大城一晟(国士舘大)を、決勝で今年の学生王者の藤田雄大(青山学院大)をそれぞれテクニカルフォールで下して優勝した。

 決勝はスピードあるタックルで藤田からテークダウンを取ると、連続アンクルホールドを決めて10-0の完勝。わずか1分17秒の速さで大学王者の称号を手にいれた。

 長野・小諸ジュニア出身で、長野の強豪高の上田西から専大に進学して2年目。「年少からレスリングをやっているけれど、初めての全国タイトル。まだ優勝した実感が沸かない」と、成し遂げたことの大きさに驚きを隠せない様子だった。

 専大の57kg級には、5月の全日本選抜選手権王者の中村倫也がいる。中村は5月の東日本学生リーグ戦でリオデジャネイロ・オリンピック銀メダルに輝くことになる樋口黎(日体大)を破った専大軽量級のエース。出場したら優勝候補の一番手だったが、けがのため欠場となり、2番手の井出に白羽の矢が立った。

 「倫也先輩の分までという気持ちは強くありました。部屋も同じで、技術もたくさん教えてくれる」と、専大の代表としてマットにあがった井出は、中村が乗り移ったように快進撃で勝ち進んだ。

 この日さく裂したアンクルホールドは、もちろん中村直伝の技。「先輩のアンクルは難しい。今日はたまたま掛かったけど、同じような技で決められてうれしい」と顔をほころばせた。

■弱点は克服してスピードを生かしたレスリングで栄光

 キッズから大学生になるまで、全国大会無冠でありながらレスリングを続ける選手は多くない。勝てなくて辞めたり、勝って満足して辞めたり。「勝てなかったけど、レスリングを嫌になったことはなかった。レスリングやめたら自分は何もないし(笑)」と、地道に続けたことで、憧れだった専大に合格。

 専大は練習道場が新しくなり、ここ数年、コーチ陣に全日本トップ選手を招へいしたりと、指導や環境面に力を入れている。「専大に入って強くなれたことは間違いないです。どの大学よりも充実していて、それが今回の優勝につながった」。

 

優秀なコーチ陣に指導されるうちに、井出自身も変わっていった。「大学に入ってから、何で負けたのか、何が悪かったのか振り返って、弱点を直していく練習に取り組むようになりました」と言う。田中幸太郎コーチが「もともと瞬発力系には秀でていた」と話すように、弱点は克服して、スピードを生かしたレスリングで守りに入らないスタイルを徹底した結果が、今回やっと出た。

 「専大に入学してやってきて、結果として残せるものができた」と話したが、今後の目標について問われると、すぐに顔を引き締めた。「今回、逆ブロックに強い選手が固まった。今回の優勝はくじ運もあったと思うので、実力はまだまだ。新人選手権(12月5~6日、東京・駒沢体育館)できっちり優勝して、初めての全日本選手権に臨みたい」。

 中村は全日本選手権も欠場する予定。“中村先輩”の代わりに送り込まれた専大のニューフェースが、全日本のマットで鮮烈デビューを飾れるか―。